

体の雪を払い落とし、二枚ガラスの扉を開けると、そこはどう見ても魚屋さんの雰囲気。
ショーケースには、日本海で獲れた大きなカレイや赤魚、ソイやハタハタがどっさりと並んでいます。どの魚も目はイキイキと光り、今しがた水揚げされたばかりの新鮮な色つやです。
ところが、店の奥には座敷が見え隠れし、香ばしい焼き魚と味噌汁の匂いが漂っているのです。
「ちょっとユニークなお店があるんです。魚つうの方なら、きっと大満足しますよ。東北のテレビ局や雑誌もよく取材に来ています」
そう言って飛良泉本舗の斎藤 社長が案内してくれたのが、酒蔵のほど近くにある「キッチン さかなやさん」でした。店先ではご主人の佐藤 政輝(さとう まさき)さんが、「どれでも定食にできますよ!刺身がいいかい?それとも焼き魚、煮付け?フライもできるよ!」と、仁賀保訛りを交えて威勢良く応対しています。
なるほど、お客さんが気に入った魚を選んで、その場で調理してもらい、しかも定食でお腹いっぱい食べられるのが人気の理由のようです。
佐藤さんは、仁賀保町の南隣にある象潟(きさかた)町の出身。この「キッチン さかなやさん」を始めて15年になります。
「せっかく活きのいい魚が揚がっても、都会や東北の他県へ優先的に流れていくことが残念でね。地元の人に、腹いっぱい食べてもらいたいんですよ」
それが、この商売を始めた一番の理由だと佐藤さんは言います。
実は、佐藤さんは高校を卒業後、地元の南部漁業協同組合に10年間勤めていました。しかし、時代とともに漁船も減り、港のセリも小さくなり、また行商のおばちゃんたちが一人また一人と減っていく中、「これじゃあいけない!地元の人たちにこそ美味い魚を食べてもらわねば」と一念発起したのです。
そして、そこでは“ある人物”との出会いもありました。
「由利郡では“ハタハタ寿司”が名物なんですが、その老舗“永田屋(ながたや)”のオーナーと意見がピッタリ合いまして、共同経営のような形をとっています。御蔭様で、今では仁賀保の常連さんが通ってくれますし、秋田県人だけでなく、旅行でいらした都会の方にも口コミで広がっています」
佐藤さんの熱弁は、さらに秋田名産のハタハタに及びます。
「ハタハタは回遊魚ですが、秋田の海岸線で産卵する習性があるようです。海草のホンダワラにたくさんの卵を産み付けます。それが“ブリコ”ですが、子持ちのハタハタは特に珍重されるんですよ。産卵前の腹の太ったハタハタは最高の味なんです」
ここ数日は仁賀保沖が大シケのため漁ができず、地物が少ないと言いますが、それでも取材スタッフの食べた焼き魚や刺身は、トレトレピチピチ。大盛りご飯に南蛮エビ入りの味噌汁付きという豪華版なのです。
ちなみに、仁賀保沖はトロール船のメッカで、毎年9月1日から翌年の6月30日までが漁期。日本海の魚介類がふんだんに揚がります。
そして7月から8月は、籠エビ漁が真っ盛り。また、夏のプリップリの岩牡蠣は、ぜひ食べてもらいたいと、佐藤さんもイチオシのごちそうです。
夜になると、飛良泉の山廃で煮魚などを楽しむ常連さんも多いとか。う~ん、思わず唾が湧いてきました。
日本海の町ならではの地産地消!さあ、あなたも秋田の旅は、ぜひ仁賀保町へ。「キッチンさかなやさん」で、たらふく召し上がれ。
※この他「タラのじゃっぱ汁」、「しょっつる汁」など、単品でもいろいろ注文できます。