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妙高酒造株式会社 ~蔵主紹介

「よろしくお願いします!」「ありがとうございます!」
インタビュー席に着くやいなや、引間 励位子(ひきま れいこ)社長からの元気な挨拶。その溌剌とした声に、こちらの構えていた気持ちが和みます。
平成8年(1996)から関東圏で展開中のコミュニティー“越乃雪月花倶楽部(こしのせつげっかくらぶ)”は、銘酒“越乃雪月花”シリーズの愛好会で、励位子 社長がプロデュースを担当。すでに会員は250人を越え、東京都内で催される年数回の懇親会も、満場の参加者で賑わっています。

この春に一新したラベルデザインも新進気鋭の外国人アーティストによる作品で、多くの“越乃雪月花”ファンを魅了しています。
「引間家へ嫁いだ25年前には、まさかこんな大役を任されるとは思いもしませんでした。でも、これは蔵元へ嫁いだ自分のミッションなのだと信じ、周囲の皆様にも支えられて、ようやくここまで来ることができました」
そう語る 励位子 社長は、もちろん主婦であり、2人のご子息の母親でもあります。

夫の正一郎 会長との縁は、お互いの母親が東頸城郡安塚町の女学校で同級生だったことから生まれました。先祖は信州諏訪の出身で、元は皇室御用達の旅館を営んでいた家柄です。
嫁いだ時、主人の 正一郎 氏は引間酒店で販売に専念していました。頻繁に県外へ出張する夫を助けるため、励位子 氏は店番を手伝いながら主婦業を続けます。

「結婚前は新潟の放送局に勤めておりましたが、“商売とはどういうものなのか”を世間知らずだった自分が、少しずつ体得していったように思います。また、主人が一時、妙高酒造を離れたことは、私もいろいろと勉強になりました。10年ほど前に当社の総務部長が退職され、それを引き継ぐため本格的に経理を担当し、4年前からは営業に取り組んでいます。まったくの素人からのスタートでしたが、自分の責任というか、“どんなことでも、コツコツと努力すれば、必ずやり通せる”と実感できるようになりました」

酒蔵の財務は税法上複雑なため、修得するのが大変であると筆者はよく聞いています。それまで家計簿もままならなかった 励位子 氏が、簡単に担当できるものではなかったでしょう。彼女の朗らかで屈託のない雰囲気には「知らない者ほど強いんだ!体当たりでやってみせる!」というポジティブな人柄を感じるのです。


では、なぜ正一郎 氏は54歳で引退し、妻である 励位子 氏を社長に選んだのでしょうか。
今の時期、そんな動きがあれば、業界の目は「この蔵元は、凋落の一途にある」と読みかねません。しかし、励位子 社長が打ち明ける話しには、それとは正反対の“向上する日本酒メーカーとしての信念”がやどっていました。
「当社は常に素材・造り・品質にこだわり、価格も適正。銘柄“妙高山”は高く評価されてきました。しかし、近年の日本酒市場の低迷からブランド的になかなか浸透せず、営業成績は伸び悩んでいました。会長は、その責任が『会社の顔たる自分にある』と判断しました。非常に真面目で頑固、真剣な生き方をしてきた人なので、対外的には少し厳しい印象を与えたのかも知れません。また、社運を賭けようとしている“越乃雪月花”は、ニッチな差別化商品ですので、お客様に見える当社の“顔作り”が必要でした。しかし、私は一年間固辞しました。あくまでサポート役でいたいと。それでも、会長の決意は変わりませんでした」

励位子 氏ならば周りから応援される。アピール力のある代表者として、次代への橋渡しを任せられる。正一郎 氏は、そう決断したそうです。
「今は誰が何と噂しようが、いっこうに構わない。この決断は妙高酒造の姿勢として、いずれはっきりと結果に現れる」
それを信じて敢行した二人のきずなに、筆者は惜しみない拍手を送ります。

さて、「越乃雪月花」と「越乃雪月花倶楽部」について、訊ねてみました。
今年も全国新酒鑑評会の金賞に輝いた妙高酒造が、「甦る日本酒」と掲げるその特徴は何か。今、急速にファンが増えつつある理由は、どこにあるのでしょうか。

「越乃雪月花は、造りだけでなく、熟成、配送出荷、販売状態まで徹底的に管理することによって、“できたて生”の日本酒をお客様に提供しています。通常は鑑評会用の酒造りにしか用いない手作業の瓶燗法(びんかんほう)、そして、0℃~5℃の冷蔵倉庫による低温熟成を用いています。これらのハード面の改善には、数億円を投資してきました」
励位子 社長の解説は、すでに社長然とした自信に満ちています。
ぬるま湯から冷水へ原酒の入った瓶を通して行く瓶燗法は、殺菌を一回のみにすることで酒の香りと味をそのまま生かします。日本酒は、瓶ごと水で冷ます急冷方法が最適であり、鮮度とうま味が抜群に良いそうです。

また、妙高酒造には一升瓶で25,000本入る巨大な冷蔵倉庫が、2庫もあります。その中でじっくりと瓶熟成する日本酒は、容器中の空気が少ないので、酒の酸化、香りの劣化も僅かな程度に抑えられるのです。
瓶燗、急冷、冷蔵、瓶熟成と、とにかくコストと手間のかかる酒造りですが、それに踏み切った理由には、ある恩師の言葉があったそうです。

「醸造試験場の先生でいらした方ですが、『どこの蔵元も、いい米です! いい造りです! とうるさいが、もはや、いい酒であることは絶対条件なんだ。素材や技をくどくど説くよりも、消費者が飲んだ時、本当にうまいかどうかだ』とおっしゃいました。会長ともども、目から鱗が落ちました」
酒蔵としての原点に戻らねば、初心に戻らねばと、励位子 社長は得心したそうです。
そんな誠実な心が、越乃雪月花の本物の味につながっているのでしょう。

越乃雪月花倶楽部の展開は、ここ最近、業界の注目を集めています。
その理由は、無論、越乃雪月花の人気にあるのですが、本旨は何なのかを 励位子 社長に解説してもらいました。
「日本酒の蔵元は多くの消費者に支えられ、また支えてきた存在だと思うのです。日本人の人生の悲喜こもごもには、いつも傍に日本酒がありました。四季折々に、酒の宴がありました。また、昔の酒蔵の店先は、サロンのような交流の場だったそうです。私も、縁あってこの妙高酒造に嫁いだからには、そんなゆかしさ、日本人らしさを、薄れさせてはいけないと思います。その一端を、微力ながら担っていきたい、本物の日本酒を愛する皆様ともっと話し合っていきたいとスタートしたのが、越乃雪月花倶楽部です」

越乃雪月花は、当初から特定契約を結んだ酒販店だけに提供するシステムでした。本物の日本酒に対しての認識、見解が合致するかどうか、話し合いの上で取引を決定しています。
今年3月に東京都内で催された第11回親睦会では、新たな越乃雪月花のプロデュースを発表。その展開においても、正一郎 会長の知人を通じて、素晴らしいディレクターやアーティストとの出会いがありました。
「何も分からなかった私ですが、一生懸命ひたむきに頑張っている内に、いつも誰かが応援して下さいました。本当に、ありがたいことですね」

今のテーマはと励位子 社長に訊ねたところ、「花も美しい、月も美しい、それを感じる人の心はもっと美しい」と禅の言葉で締めくくってくれました。真心いっぱい、懸命なその後姿は、長年寄り添った 正一郎 会長にしっかりと見守られています。