

朝は紺碧の波がうねり、夕には赤い陽をかがよわせる日本海。そんな美しい風景を映す尼御前海岸のほど近くに、加賀の国ならではの逸品の料亭が佇んでいます。
瀟洒な平屋造りの「新保」は、知る人ぞ知る日本海の食彩どころ。全国的に有名な橋立港に揚がる「ズワイ蟹」や「甘エビ」などを美酒・常きげんと楽しめる、鹿野 頼宣 社長、農口 尚彦 杜氏も絶賛の名店です。
店内に入ればつややかな白木造りの空間が広がり、ほのかな灯りの中、贅を尽くした加賀のもてなしを感じます。
床にはあたかも潮騒に包まれるように海水が湛えられ、そこにはトレトレの活け魚、ズワイ蟹がうごめいています。新保には全国の美食家たちが足繁く通 って来るという噂ですが、なるほど頷けます。
それもそのはず、新保は橋立の漁師さんが営む新鮮魚介の「浜茶屋」が元祖であり、こだわりの会員制でスタートした料亭だったのです。
「私の父は、橋立の漁師でした。その父が獲った魚で、母は浜茶屋を営んでおりました。そこが人気を呼び、昭和30年頃には市場の跡地を手に入れて、山本屋という料理店を始めました。私と弟も手伝い、たくさんのお客様で大盛況でした。ところがいつもお通い頂きながら入れないお客様がいらっしゃいまして、本当に申し訳ない気持ちでおりました。それを見かねた私の友人の方々が『もう一軒、店を構えてみてはどうだ』とおっしゃって下さいまして、一念発起し、平成4年(1992)この新保を会員制(出資制)による料理店として始めることになりました。その時に大変な御力添えを賜ったのが、折々に山本屋へ御越し下さっていた東大寺208世館長・清水 公照 様です。新保の名は 公照 様がお付け下さったもので、玄関の名板から客室まで直筆の揮毫を飾らせて頂いております」
しとやかな口調と笑顔でそう語ってくれるのが、新保の女将・福島 絹枝さんです。開店してからは多くの御なじみ様に支えられ、口コミも広がって、さらに全国からファンがやって来ているという新保。
その結果、現在は会員制ではなく、誰でも気軽に入れる料亭に変わりました。
この極上のしつらえに極上の日本海の幸、そして極上の美酒・常きげんとくれば、どんな健啖家も唸るような御馳走ざんまいを楽しめそうです。
店内は、商談にもピッタリの静かな離れ、宴会用の大広間、グループやご家族向けの小座敷、そして大きなカウンターとバラエティーに富んでいます。
新保の料理材料は、朝一番に揚がったキトキトの魚介類から、福島さん自らが選びます。メニューはコース料理が主で、ズワイ蟹コースや岩牡蠣コースなど季節物を含め7種類ほどを用意しています。
「橋立は魚介類の宝庫ですから、四季を通 じて美味が揃いますよ。私は、魚河岸に近い山本屋の弟夫婦と連携して、できるだけ珍しくて活きの良い物を一番に押さえるようにしております。せっかくいらっしゃるお客様には、ありきたりの物でなく、今日しか、今しか食べられない逸品の味が何よりのおもてなしだと思います。また、お客様にご要望をお聞きすることもできます。例えば干物が食べたいとおっしゃるお客様には、私が一夜干しを作りますよ」

嬉しそうに話してくれる福島さんを見ていると、どこか子どもたちを迎える母親のような雰囲気です。実際、新保のゲストのほとんどが「おふくろさん、また来たよ」「ただいま!」と笑顔でやって来るそうです。
料亭と言えども、敷居の高さを感じさせない雰囲気。そこには、福島さんの優しさと感謝の心が満ちあふれています。
「皆様のお力添えで、今日の新保があります。たくさんの御縁に感謝して、毎日、大好きな料理店を生き甲斐にできるのは、神様と人様の御蔭だと実感しております。あの時、公照様は『わしが名を付けて、傾いた店は無いぞ』とおっしゃって下さいましたが、本当にありがたいことです」
尼御前のようにおだやかな福島さんのまなざしの先、膳の敷き紙には 清水 公照 館長のたおやかな墨字が映っていました。
加賀の国を訪れたなら、まずは新保で御馳走ざんまい。真心のこもった新鮮料理で、格別の常きげんをたっぷりとお楽しみあれ。

