

白木の格子戸をくぐると、「いらっしゃい!」と威勢のいい声。カウンターに並ぶ色とりどりの海の幸が、ゲストを迎えます。
ここ「名代寿し辰」は、地元の食通に限らず、関西のファンにも人気の味どころです。
週末には、新鮮な魚に舌鼓を打とうと、わざわざ大鳴門橋を渡ってやって来る方も多いとか。
「鳴門のように、味・鮮度とも最高の魚が手に入る所は、四国でも少ないですよ。私は漁師さんと親しいので、良い魚が揚がったらすぐに連絡をもらえるんです。活きの良さこそ、うちの信条ですよ」と、ご主人の森本篤生(とくお)さんは、旬の“鱧(はも)”を勧めてくれました。なるほど、ここ鳴門沖から淡路島付近は一級の鱧の漁場とあって、さすがに絶品の味です。
目にも鮮やかな森本さんの盛り付けも、寿し辰ならではの魅力。さぞや若かりし頃からの板前修行の賜物と訊ねてみると、以外や以外、元々は技術系の学校を卒業し、寿司屋とはまったく畑違いの専売公社に勤めていたそうです。
「私は愛媛生まれですが、お隣の香川県内の工業高校を卒業したんです。それから3年ほどサラリーマンをしました。でも、何か違うなと思い始めたんです。もっと、自分に手ごたえのある、手づくりの仕事をやりたかった。そんな時、昭和45年(1970)に私の姉の嫁ぎ先が寿司屋を始めまして、手伝うことにしたのです」
森本さんの姉の嫁ぎ先は、徳島の麻植郡(おえぐん)鴨島町。鳴門からは車で小1時間の所です。つまり森本さんは、愛媛、香川、徳島と3県に暮らしてきたわけです。
寿司屋に入った当初は職人の見よう見まねと独学で、包丁砥ぎもこなしたそうです。そして15年後、この鳴門に自分の店を持つに至りました。
元々は、手先が器用で“技術系”を志していた森本さんだけに、そんな才能が、寿司の道にピッタリと当てはまったのでしょう。
さて、寿し辰のこだわりを聴きますと、ネタについては「鳴門の四季の旬」とのこと。春の鯛、夏の鱧など季節ごとの味をふんだんに揃えています。
そしてシャリは、稲作りから注文した最高級の徳島米を使用しています。
「地元の魚に地元の米、とくれば、やはり地元の酒です。鳴門鯛さんの酒は、うちの味にピッタリ。オリジナル酒も造ってもらってて、お客さんからのご指名も多いんですよ」と、ご主人自ら“しゅムリエ”を賞賛してくれました。
寿し辰は、今年で17年目。
大阪・ミナミで修行をしていたご子息も、成長して戻って来ました。
54歳を迎える森本さんとの親子二代の“鳴門の味づくり”に、ますます人気が高まりそうです。




