

冬の金沢には、ズワイ蟹やノドグロ、寒鰤など、垂涎の日本海の幸がどっさり。その中でも、能登で獲れる天然の牡蠣は、食通たちを唸らせる絶品の味覚でしょう。
青みがかったプリプリの身には、海の栄養がたっぷりと詰まっています。
「能登の牡蠣は、この季節にしか手に入らないんです。今年は気温があったかいので、身が少し小さいみたいですね。でも、うちの土手鍋はお葱や生姜がたっぷり入るから、美味しいですよ」
福々しい容姿でそう語ってくれるのは、尾張町にある「みふく」の女将さん。照れ屋だから、写真も名前も載せないでとお願いされ、ご紹介できないのが残念ですが、ずっと老舗の御茶屋を守ってきた金沢美人です。
みふくは昭和初期の創業以来、会席料理の御座敷が主でしたが、15年前に牡蠣土手鍋だけの専門店に変わりました。
それでも、閑静な町の中にひっそりと佇む日本家屋は、逸品の加賀情緒を偲ばせます。苔生した庭や蹲(つくばい)が、数奇屋造りにしっとりと調和しています。
みふくの牡蠣土手鍋は、新鮮な牡蠣と埼玉産の深谷葱、そして加賀野菜を少しずつ入れながら、溶き卵にくぐらせて、ゆっくりと食べるのがコツです。いつしかポカポカと温まって、額には汗がにじんできます。ちょっと風邪気味な時には、とても効果がありそうです。
その秘密は、粒に挽いた生姜を出汁へたっぷりと入れること。
金沢の合わせ味噌の甘味と生姜の辛さが渾然一体となって、牡蠣と野菜の旨味を存分に引き出してくれます。
そして、鍋のシメにはうどんが入り、最後は牡蠣ご飯まで出てくるというボリュームに大満足。
「うちは、天然の牡蠣がある季節だけお店を開けています。ですから、10月から4月中旬まで。でも『金沢に冬がやって来ると、この牡蠣鍋を食べたくなるねえ』とおっしゃっるお馴染み様は、たくさんいらっしゃいますよ」
つまり、みふくの牡蠣鍋は、金沢人には欠かせない冬の風物詩なのです。
牡蠣が苦手なお客様には、牛肉の土手鍋もご用意。どちらも、辛口の加賀鳶のお燗酒にピッタリと合います。
ほら、今年の冬の金沢が、あなたはもう待ち遠しくなっているんじゃないですか。

