蔵主紹介

株式会社三宅本店

歴史と伝統と血脈を胸に、今ふたたび、呉を愛する蔵元

歴史と伝統と血脈を胸に、今ふたたび、呉を愛する蔵元

創業者から六代目、清酒蔵元としては五代目の三宅 清嗣 社長は、昭和34年(1959)年生まれの54歳。経営者として、まさに脂ののった年齢です。
そして、代々の襲名である「三宅 清兵衛」について訊いてみると、意外な答えが返ってきました。
「先祖の遺言状では、代々の家督を継ぐ者が清兵衛を名乗れとしていますが、私はまだ襲名しておりません。と申しますのも、私は父親が生きている時に後継者になっていますので、清兵衛が二人いるのもおかしな話でした(笑)」
いずれ襲名披露の時が来るでしょうとほほ笑む清嗣 社長、その面ざしは先代の清兵衛に似て、聡明さを感じます。 
清嗣 社長の代で三宅本店が大きく変わった戦術の一つに社員による酒造りがあると知り、訊ねてみました。

「もう7~8年前になりますね。蔵人や杜氏を社員に雇うのでなく、社員を杜氏や蔵人に育てる考えでスタートしました」
それまでは当然、安芸津杜氏や蔵人を雇った出稼ぎの職人による酒造りでしたが、職人が辞めてしまえば、その技術は変わるか、途絶えるかで、いっこうに会社の資産にならない。これを改善するためにも、社員制は必要でしたと清嗣 社長は振り返ります。
戦前の全盛期には呉の本社、満州奉天の満州千福醸造株式会社、さらには青島(チンタオ)千福醸造株式会社と繁栄し、一時は灘・伏見のメーカーを抜き、総生産高が日本一を誇った時代もありました。しかし、現在は少子高齢化も含め、清酒市場の後退と飲酒スタイルの変化によって、生活者により近い蔵元としての経営が求められていると述べます。

三宅 清嗣 代表取締役社長
社員による酒造りに改革

株式会社三宅本店の現在の醸造量は、年間約16000石。かつては四季醸造の規模でしたが、今はコンパクト化し、効率的な生産体制に改革しています。
これは、清嗣 社長が千福ブランドの再耕を地元や地域密着型に転換してきた成果のようです。
「当社の市場は基本的には広島県や山口県、さらには関西や四国がファンの多いエリアです。これらの地域の食とのマッチングを、まずは大切に考えています」
市場や流通は大事だが、まずは口に入れてくれる最終顧客。つまりは、消費者のニーズこそが三宅本店のこだわりと言います。例えば瀬戸内海に面する呉の町は魚の宝庫で、トロ箱からあふれるほど白身魚が揚がります。その塩焼きや煮つけに合う甘口の食中酒が、三宅本店の真髄と清嗣 社長は胸を張ります。
「特に“精撰ふくぱっく赤”は昭和55年(1980)の発売以来、ベストセラーです。これが、広島の魚料理に合うんですね」

ちなみに、この精撰ふくぱっく赤はベルギーのモンドセレクションで銀賞を二年連続で獲得しており、まさに大衆の宅飲み酒の逸品と言えるでしょう。
また、東京に暮らす呉や広島出身の人たちに、時には故郷の酒と肴を楽しんでもらいたい。そんな思いで、東京の庶民酒場が密集する新橋にアンテナショップとして“廣島呉藩立ち呑み 脱藩酒亭 新橋浪人店“を展開しています。
ここは10名で満員になる立ち呑み店ですが、広島の牡蠣やたこなど郷土のおつまみを取り揃えた、路地裏の隠れ家的な店舗です。
「昭和レトロを感じさせる雰囲気と、千福のお燗酒に酔いしれる中高年ファンに喜んで頂けているようです」
上京した際には、清嗣 社長自身も顔を出すそうです。

精撰ふくぱっく赤
廣島呉藩立ち呑み 脱藩酒亭 新橋浪人店

地元の広島県や近隣地域から呉へ旅する人たちに向けて、清嗣 社長が企画したのが、社の敷地内に建つ“酒工房せせらぎ”と“ギャラリー三宅屋商店”です。
酒工房せせらぎは、旧来の酒蔵だった建物を酒造りの工程が見学できるガラス張りの社屋に改装しています。館内には歴代の蔵元がコレクションした逸品や賞状が飾られ、歴史と伝統を愛でることができます。
さらには日本酒の歴史や三宅本店の酒造りについて学んだり、知ることができるサロン風の空間も設け、観光バスで訪れるゲストの受け入れ体制も整えています。
何より好評なのは、しぼりたての新酒、できたての原酒、フルーティーなリキュールなど、三宅本店のあらゆる酒を手に入れることができるショップが併設されていることでしょう。筆者が取材した当日もギャラリー三宅屋商店に地元のテレビ局取材が入り、評判の高さを実感しました。

酒工房せせらぎ
ギャラリー三宅屋商店
ガラス張りの見学コース
人気の酒ショップ

このギャラリー三宅屋商店で近年人気の「神力 純米無濾過原酒 生もと造り」をテイスティングしましたが、その稀有な風味とコクに脱帽です。
「神力は戦前の酒米で、これを復活させました。精米歩合が85%ですから、いわゆる低精米の昔の日本酒を再現した生もと造りです。2年前の発売から、ようやく人気が高まりつつあります。この酒をぬる燗にしますと、食中酒として、新しい体験と言いますか、面白い味わいですよ」
呉の町には焼き鳥屋が多く、そこでは刺身やおでんも食べられるので、どの肴にも合う生もと造りを楽しみながら自画自賛していると清嗣 社長オススメの酒でした。

神力 純米無濾過原酒生もと造り
新しい食中酒の提案を

信頼ある千福ブランドの堅実な展開の一方で、ユニークかつピンポイントな新戦略を清嗣 社長は矢継ぎ早に企画開発しています。
あの大和ミュージアムのプライベート酒商品、地元特産の大長レモンを使った日本酒リキュール、広島菓子博での酒粕プリンやかりんとうなど、枚挙にいとまがないほど精力的に商品開発に取り組んでいます。
そんな中で、筆者が注目した二つの商品を紹介しましょう。
まずは、広島県のベストセラーであるもみじ饅頭のコラボレーション企画“吟醸もみじ”です。千福の吟醸酒“スペシャル千福”をチョコレートに練り込んだ、大人の味のお土産饅頭。安芸の宮島観光でも人気の商品です。

そして、エポックを感じるのが2012年グッドデザイン賞を受賞した“千の福めぐり”。
一見、何の変哲もないパックのようですが、蛇の目盃をモチーフにしたかのような、ライトな感覚の酒パックに驚かされます。
壱の盃は、加熱処理を行わないで貯蔵した生貯蔵酒。新鮮でクセの無い素直な美味しさが楽しめます。弐の盃は、時間をかけてじっくり低温発酵させた吟醸酒。ホワッと立ち上がる、華やかな香りが楽しめます。そして参の盃は、少しアルコール度数が高めの純米原酒。力強い旨みを少しずつ飲めるのも、大人の楽しみ方です。
「それぞれの味のちがいが楽しめる、遊び心いっぱいのユニークな商品だと思います。自動車のモーターショウにも提供したのですが、ご好評を頂き、若いジェネレーションへの日本酒スタイルの提案、クールジャパンな印象を与える商品として認められたと感じています。小容量の日本酒からスタートして、身近にスマートに楽しんでもらおうとする試みですね」

清嗣 社長の自由な発想と展開。そこには、創業以来、市場に先鞭をつけてきた千福の蔵元としての自信が垣間見えました。そして、銘酒千福の由来となったセンとフクのサービス精神が脈々と生きています。
呉の蔵元であること、広島の酒と食文化を標榜し続けること、そのこだわりこそ、今後の株式会社三宅本店の哲理であると実感したインタビューでした。

コラボレーション商品の吟醸もみじ
グッドデザイン賞 千の福めぐり
グッドデザイン賞 千の福めぐり
呉の酒と食文化を標榜し続ける