TOP > バックナンバーコンテンツ > 歳時記(第6回)

今年収穫されたお米を使用して一番に醸造されたお酒は、一般的に『新酒』と呼ばれています。その年のお米の出来に左右される部分があるものの、各蔵とも上々のお酒に仕上がっています。なぜなら、新酒は今年のお酒の出来を占う意味があるので、各蔵とも渾身の力を込めて造るからです。定番酒とは異なり、新鮮な風味と酸味、若々しさを楽しむことができるこの新酒で、各蔵のお酒の出来を比べてみるのも一興です。
「今年実ったみずみずしくフレッシュなお米の一粒一粒がそのままお酒になったような、ふくよかな甘さが魅力の新酒。麹の豊かな香りが楽しめるのも、作りたてならではですね」と料理長の建守さん。太陽と大地の恵みが凝縮された新酒に最適な肴は、複雑な味つけではなく、素材を生かしたシンプルな料理に限ると断言します。「魚の塩焼きや肉の塩焼き。かき揚げも天つゆではなく、塩で食べるのがおすすめです。野菜の味噌焼きなどもよく合いますね。ちょっとつまんでは甘みのある新酒をひと口。この繰り返しはくせになりますよ。ご自宅でならちょっと塩けがきいた漬けものや、冷やしトマトにパッと塩をふっただけでも十分に満足できるつまみになります」。どの蔵元からもほぼ同じ時期に出荷される新酒ですが、地域によって甘みや香りに個性が出るのもおもしろいところ。日本の様々な風土を思い浮かべながら、今年の締めくくりに飲み比べてみてはいかが?

こんもりと盛りつけられたかき揚げ。泥臭くなく線維がきめ細かい、千葉・八街(やちまた)のごぼうだけを使い、ピーラーで薄く幅広く削ってころもにくぐらせ、揚げていきます。とにもかくにも食感がさっくりと軽く、ついつい手がのびる一品。そして、食感を楽しんだ後には、噛み締めるほどにごぼうの甘みが感じられます。この甘みを引き立てるのが、山椒塩。パラリとふって塩けと香りを加えると、さらにお酒が進みます。

鶏肉を使った料理は数限りなくありますが、鶏肉のおいしさをダイレクトに味わうなら、やはり塩焼きでしょう。素材は、鹿児島県産の銘柄鶏。そこにしっかりとふるのは、丸みのある塩けが特徴の伊豆大島の天然塩です。これを炭火で焼くのですが、この焼き加減にこそ料理長の熟練の技が光ります。身はジューシーさを損なわず、外側の皮はパリッと香ばしく。レモンを絞り、新酒を片手に焼きたてアツアツをぜひいただいて。

しっかりとしたほう葉に並べられた椎茸。特製の味噌をたっぷりとかけて炭火で焼くと、柔らかい熱で椎茸にゆっくりと熱が入り、味噌もジワジワと温まって、香ばしさがふわーっと広がっていきます。昔ながらの製法で作られた原木椎茸を使うため、椎茸の大きさに多少ばらつきがあるものの味は抜群。森の記憶を宿したようなワイルドな香りも魅力で、口に入れるとどこか懐かしさを感じるはず。大人だからこそ分かる郷愁の一品です。

東京、オランダのホテルオークラなどでシェフを経験し、和食にたずさわること13年。日本酒とともに歩んできた建守さんはこう言います。「地酒を語るには、やはりその土地の郷土料理は欠かせません。ここ日本橋はその昔、全国の食材が集まってきた場所。各地で愛されるおいしい酒と食を、もう一度ここから発信していきたい。そして、地酒と郷土料理を味わいながら、日本中をまるで旅する気分で楽しんでもらえるとうれしいです」。
江戸時代、旅のはじまりとなったこの地は、400年の時を経たいま、美食の発信地としてにぎわいを見せています。
※歳時記で紹介している"肴"と"地酒"は期間中のみニホンバシイチノイチノイチで味わえます。