TOP > 歳時記(第28回)
その昔、お酒を瓶に詰めて出荷する前の加熱殺菌は、大鍋にお湯を溜め、瓶ごと浸けて行なっていました。中のお酒の温度が62℃ぐらいになるので、蔵人の手は熱で剥け大変でした。秋になると暑さも和らぎ、加熱殺菌をしなくても『冷や(そのまま)で出荷(卸し)』できるようになります。これが『ひやおろし』の語源です。穏やかな香り、滑らかな味コクは、秋の味覚と相性抜群。秋の夜長を、旬の食材と旬の日本酒をあわせて楽しんでみてはいかが?
涼しい夜風にホッとする秋は、冷やおろしの季節です。冷やおろしとは、冬から春に仕込まれた新酒を、夏の間に貯蔵、熟成させ、外気温が下がった秋口に出荷する日本酒です。半年間寝かせることで、うまみと風味が増し、まろやかになると言われています。
冷やおろしに合う料理ということで、料理長の倉田さんがこだわったのが、秋の食材をメインに使うこと。「さんま」、「松茸」、「白舞茸」、「ワラサ」など、この時期ならではの味覚は、深みのある「冷やおろし」と抜群の相性なのだとか。もう一つこだわったのが、一品でおいしさが2度楽しめるメニューにすること。「ワラサの刺し身」は刺し身とたたきの両方を盛り合わせ、「白舞茸の包み焼き」は白舞茸を食べた後の金山寺みそも、酒の肴になるようにしています。「松茸のさんまの土鍋ご飯」は、最初に松茸とさんまをつまみとして食べ、ほどよいところでご飯と混ぜるのがポイントです。
「秋の夜長は、旬の食材とともにゆっくりと楽しむのが何よりの贅沢」と倉田さん。冷やおろしは、純米、純米吟醸、山廃仕込みなど、種類によっても味に違いがあるので、好みのものを探してみるのもおすすめです。
ワラサは出世魚で、成長に応じてワカシ、イナダ、ワラサ、ブリへと名前を変えていきます。体長は60~80cmほどで、中秋から晩秋に、ブリに先駆けて漁獲されます。ブリに比べてやや赤身の部分が多いのが特徴。脂がさらりとしているので、少し涼しくなったこの時期に欲しくなる味でしょう。まずは「刺し身」をいただいて、冷やおろしを一口。続いてこうじみそ、おろししょうがなどを加えた「みそたたき」をいただくと、違った味わいが楽しめます。
秋はたくさんのきのこが出回る季節。なかでも静岡県産の白舞茸は、毎年お客様に好評で、この時期にしか味わえないものなのだそう。味にくせがなく、歯ごたえのある白舞茸は、シンプルに味わうのがいちばん。甘みのある金山寺みその上に白舞茸をのせ、柚子をふって紙で包み、オーブンで蒸し焼きにします。開けた瞬間、きのこの香りが広がり、これだけでもお酒が進みそう。隠し味はなんとバター。こくのある味わいをぜひ堪能してください。
秋を代表する食材といえば、松茸とさんま。この2つを組み合わせた炊き込みご飯は、そう食べられるものではありません。お米の上に、しょうゆ、みりん、しょうが、山椒などで蒲焼きにしたさんまと、スライスしたまつたけをのせ、だし汁で炊き上げます。よく混ぜてからいただくと、蒲焼きのたれがご飯になじんで、なんとも香ばしい味わいに。上の具だけをつまんで酒の肴にするのもおすすめ。秋のおいしいハーモニーを楽しんでください。
東京、オランダのホテルオークラなどでシェフを経験し、和食にたずさわること13年。日本酒とともに歩んできた建守さんはこう言います。「地酒を語るには、やはりその土地の郷土料理は欠かせません。ここ日本橋はその昔、全国の食材が集まってきた場所。各地で愛されるおいしい酒と食を、もう一度ここから発信していきたい。そして、地酒と郷土料理を味わいながら、日本中をまるで旅する気分で楽しんでもらえるとうれしいです」。
江戸時代、旅のはじまりとなったこの地は、400年の時を経たいま、美食の発信地としてにぎわいを見せています。
※歳時記で紹介している"肴"と"地酒"は期間中のみニホンバシイチノイチノイチで味わえます。