TOP > 歳時記(第29回)
清酒を造る行程で本仕込により発酵を終えたもろみを圧搾してこします。この行程で粗くこすことにより、米の固体部分が残った、白く濁ったままの地酒が誕生します。これが「にごり酒」です。とろーりタイプからさらっとタイプまで各蔵元によってさまざまな造りがあります。近年ではカクテルのベース酒としても活躍しています。米のうまみを感じながらじっくり呑むもよし、カクテルにしてさっぱり呑むもよし、好みにあった楽しみ方をどうぞ。
冬の訪れを感じるこの季節。長い夜の酒宴におすすめなのが、にごり酒です。にごり酒は、もろみを目の粗い布で濾した白濁酒。米本来の甘みとうまみが残る、昔ながらの日本酒で、まろやかな味わいと滑らかさが特徴です。
にごり酒に合う料理ということで、料理長の倉田さんが提案するのが、素材の持ち味を生かした和食。「しょうゆ、みそを使った和食は、炊き立てのご飯を思わせるにごり酒と相性抜群」と語ります。今回ご紹介する京野菜の揚げ出しや炊き合わせは、まさに、にごり酒にぴったり。お互いのおいしさを引き立て合います。
また、意外にもこのお酒と合うのが、オリーブオイルとにんにくでソテーした、スルメイカの丸ごとソテー。「イカの塩辛が日本酒に合うように、イカの甘みとワタの苦みが、にごり酒に合うんですよね」と倉田さん。
にごり酒は、とろりとしたものから微発泡のものまで、いくつか種類があるので、好みのものを探してみては。豊かな香りと味わいを楽しむため、冷やしていただくのが鉄則です。
えびいもは京都で古くから栽培されている里いもの一種。海老のしっぽのように湾曲した形が特徴で、11~2月に旬を迎えます。里いものねっとり感とは違い、舌ざわりは非常に滑らか。ほのかに甘みもあります。この味わいを生かすため、まずは米ぬかを入れた熱湯でゆがいてから煮汁で炊き、片栗粉をつけてカラリと揚げ、自慢の揚げ出しのつゆ、大根おろしとともに盛りつけます。シンプルながらも奥深いこの一皿には、香り高いにごり酒がぴったりです。
京野菜を代表する聖護院かぶらは、普通のかぶと違って非常に大きく、数キロになるものもあります。きめの細かさと、噛むごとに広がる甘みが魅力。このかぶらを三日月形に切り、一度ゆがいてからしょうゆベースの煮汁で炊いて、味をしみ込ませます。一方の車海老は生きのいいところをさっとゆで、こちらも煮汁に入れて味をなじませます。決め手はなんといっても、しっかり練り上げた玉味噌。素材それぞれの味わいを、この特製の味噌とともに味わって。
青森の豊かな漁場で捕れるスルメイカ。その新鮮なおいしさを丸ごと味わえるのがこちらのメニューです。香り高いオリーブオイルとにんにくでソテーしてから、白ワインを入れて煮詰め、仕上げにしょうゆをふってうまみを絡めます。ワタを一緒にソテーしても臭みがないのは、鮮度のいい証拠。レモンをギュッと絞っていただけば、さっぱりとしたおいしさになります。米本来の味わいがするにごり酒が、いくらでも進んでしまいそう。
東京、オランダのホテルオークラなどでシェフを経験し、和食にたずさわること13年。日本酒とともに歩んできた建守さんはこう言います。「地酒を語るには、やはりその土地の郷土料理は欠かせません。ここ日本橋はその昔、全国の食材が集まってきた場所。各地で愛されるおいしい酒と食を、もう一度ここから発信していきたい。そして、地酒と郷土料理を味わいながら、日本中をまるで旅する気分で楽しんでもらえるとうれしいです」。
江戸時代、旅のはじまりとなったこの地は、400年の時を経たいま、美食の発信地としてにぎわいを見せています。
※歳時記で紹介している"肴"と"地酒"は期間中のみニホンバシイチノイチノイチで味わえます。