TOP > バックナンバーコンテンツ > 酒・食・場(第8回)
日本酒などの米や雑穀を使ったお酒は、「モロミ」と呼ばれるにごり酒がその元になっています。このモロミを搾ることで、清酒が誕生します。その際の残り物が、酒粕になります。 酒粕の量は、おおよそ使用した米の重量比25%ほど。その内容は、もちろん水分(酒)が一番多く、次に米の含んでいた炭水化物、蛋白質、脂質、灰分。そして、アミノ酸やビタミンなども含まれています。ですから栄養的に優れていて、近年の健康食ブームから、品切れになる酒造メーカーもあるとか。 おもしろいことに、江戸時代は梅雨の食中毒防止、夏バテ対策などに甘酒がブームになって、酒粕を奪い合う場面 もあったそうです。今も昔も、日本人のすることは同じようです。 とは言うものの、昔とちがって、春から夏にかけては酒粕をほとんど見かけなくなりました。 これは日本酒の生産量が減ったことや、酒粕のできない新しい酒造りの方法(米粉を使う液化仕込み)が考え出された結果 でしょう。 一方、実は夏場を越えて熟成させる酒粕もあります。お酢の原料や漬物に使用されることが多い「踏込み粕」と呼ばれる酒粕は、酒粕から空気を抜いてから、約半年間ほど寝かせます。かつて蔵人たちが丁寧に足で踏んだことから、そう呼ばれています。 こうすると酒粕の中の糖分がアミノ酸に変化し、風味・旨味も強くなって、色も茶色く変化していくのです。
ところで酒粕は、江戸時代の産業廃棄物でした。 今のように、あらゆるアルコールの揃っていない時代ですから、お酒と言えば「日本酒」。消費量 も多くて、造ればいくらでも売れた時代です。当然、酒粕はどっさり取れて、余った酒粕の処分に蔵元は困りました。 漬物はもちろん、田畑の肥料や家畜の飼料にも使われましたが、それでもすべてを始末することはできず、捨てざるを得ません。ところが、それを画期的なアイデアで再利用した蔵元がありました。 現在の愛知県半田市にある蔵元・中埜酒造株式会社の先祖は、当時、江戸で大流行した「立ち食い寿司(早寿司)」のシャリに使う酢を、酒粕から作り出すことに成功。酒粕酢は江戸に売り込まれ、まろやかな甘い風味がヒットしました。 粕酢は米酢に比べて最初から甘味があり、砂糖が不要。当時、砂糖は琉球王国からの輸入品で、とても高価でした。 その点、カスとして捨てられる酒粕から造った酢ですから、とても安く、そして新しい味がウケたということでしょう。
私たちが購入する酒粕のほとんどは、四角い形でパックされた「板粕」と呼ばれる商品です。 ところが、冬の12月~3月頃にかけては形を揃えていない、砕けたままの「ばら粕」や、しっとりとしたおぼろ豆腐のような「しずく粕」を、売り場で目にすることがあります。 この3つは酒粕の基本タイプで、酒の搾り方によって異なります。 つまり、酒の品質によってもちがってくるわけです。
■板粕 ・形状/四角形または長方形で、均等な厚さがある。表面には、搾り袋の格子模様がうっすらと残る。 ・搾り方/「ヤブタ」と呼ばれる蛇腹式の圧搾機で搾る。そのため、搾り板に粕が張り付いて四角い形になる。これを、人手や機械設備で剥ぎ取る。 ・酒の品質/普通酒から大吟醸クラスまで、いろいろ。
■ばら粕 ・形状/砕けた砂糖菓子のような、モロイ状態。板粕よりもかなり分厚い。表面 が粗い感じなのは、搾り袋の中に残った粕の塊を細かく砕いているため。 ・搾り方/旧来の「ふね」と呼ばれる、加圧式の箱(木製やステンレス、FRP製など)で搾る。ヤブタのような大掛かりなマシーンより手搾りに近く、こだわりの搾り方に使われる。 ・酒の品質/主に、吟醸~大吟醸クラス。
■しずく粕 ・形状/しっとりと瑞々しい、白味噌のようなペースト状。酒の残りしずくを含んでいる。 ・搾り方/タンクの中にモロミの入った袋を何本も手で吊るし、自然に落ちるしずくを集める究極の搾り方。 ・酒の品質/主に、大吟醸、純米大吟醸。
酒粕を使った人気の肴と言えば、サワラや鯛など淡白な魚の粕漬けなどですが、それに限らず、牛肉や豚肉などにもひと工夫して、酒粕の裏ワザを加えるだけで、いつものツマミがぐっと美味しくなります。 これは酒粕が熱を加えられることで香りを発し、食材の旨味を引き出す力を持っているからです。とっても簡単な酒粕アイデアですから、ぜひ、お試しあれ!