水・米・技の紹介

玉乃光酒造株式会社

名杜氏と社員の総和で、銘酒「玉乃光」にひときわ磨きをかける

名杜氏と社員の総和で、銘酒「玉乃光」にひときわ磨きをかける

昔より、伏見の酒造りは、主に京都北部からやってくる但馬杜氏や兵庫の丹波杜氏などに担われてきた。
玉乃光酒造の酒造りをたばねるのも、但馬杜氏の森本 洋司 杜氏。

「父親が但馬杜氏をしていたこともあり、父親の職業にあこがれ、尊敬していました。そんな父の姿をみていたこともあり、私も酒造りの世界へ入ったんですよ」

玉乃光酒造の造りといえば純米酒に徹しているということ。
11代目宇治田会長の唱えた”純米酒ルネサンス”は、森本杜氏の考える酒造りと合致したのだ。

「本来、日本酒は米のみから造られる”純米酒”でした。
酒造りに携わるものとして、いい酒、アル添酒ではない純米酒が造りたかったのです。
ここでの酒造りは”日本酒の文化を継承している仕事である”日々の造りから感じられるのでやりがいもありますよね。」

そう笑顔で語る森本杜氏はなんと、今では数少ない”酒造り唄”の伝承者とのこと。

「昔は、唄を同じ調子で歌うことによって、作業時間を一定にしていたのですよ。今でも仕込みの全工程が終わったとき、ありがとうの意味合いで皆で歌いますよ。」

杜氏の美声に酔い、ふつふつと発酵するモロミの香りに誘われた取材陣。
それでは、蔵内を案内していただきながら、玉乃光の純米酒の造りの特徴について聞いてみよう。

森本杜氏は但馬杜氏
酒造り唄を守りたいと若い蔵人が訪れる

森本杜氏は”糖分と酸の効いた辛口の純米酒”を皆様へお届けすることが使命だと断言します。

「糖分と酸が効いた酒は、濃厚な味わいになりますね。基本は淡麗辛口を目指していますが、酸の効いた飲み飽きない切れのある酒を造っています。」

その森本杜氏が目指す酒造りには、伏見の”伏し水”が欠かせません。

「ここでは伏見丘陵を水源とする”伏し水”を地下150m~200mからくみ上げ使用しています。
仕込み水はもちろん、洗米や樽の洗浄などにもすべてこの”伏し水”を使用しています。」
伏し水といえば、日本名水百選にも選ばれる水。
今も伏見区では、この”伏し水”があちこちで湧き出るほど豊富です。

伏し水だから軟らかい酒になる、それを切れの良い酒にする。ここまでなら分かりやすい話ですが、単に切れの良い酒にするだけではなく、その中に味わい深い旨味を醸し出す。せっかく伏見の”伏し水”を使っている"ありがたさ"を生かすのが杜氏の仕事、という気概を感じます。

そして、玉乃光酒造の酒といえば、備前雄町。

「雄町米は江戸時代から最高の酒米としての評価も高く、現在の酒米の祖先として、位置付けられています。
大粒で心白が大きく、酒米の中では最高品質です。
玉乃光は、約30年前からこの酒米の復興に協力をして、現在まで主力の酒米として使い続けております。
酒質はこくがあり、飲み易く、優しさがあってあっさりしています」

森本杜氏は『造り手としては米は問わない』とも言われていましたが、それにもかかわらず備前雄町を看板とする玉乃光。
”伏し水”をふんだんに使える喜びと同様に、それが無ければ出来ないのでなく、その上で良いものを享受していることを生かそうとする蔵の姿勢を感じます。

大粒で心拍が大きい『備前雄町』
岡山県の契約農家で徹底管理され、生産されている

毎年10月になると蔵人7人とともに玉乃光に蔵入りする森本杜氏。
造りの期間中は蔵人と寝食をともにすることでより連帯感を高めます。

「杜氏の技能・経験、杜氏の意図することを分かってくれる経験豊富な蔵人、そして若さと技術が融合した強力な酒造チームを作っています。本当のいい酒を造るには”人の和”が欠かせません。"和"がないと絶対にいい酒はできません。」

インタビューの最後に、これからの造っていきたい日本酒についてお聞きしました。
「今後、いろいろな価値観で日本酒を愉しむ時代になっていくのでしょうが、私は本来の日本酒の造り方にこだわり、その定義から外れないようにして、最高峰の酒を造っていきたいですね。酒米ごとに味の違いがわかる日本酒なんていいかもしれません。」

純米酒へ強いこだわりを持つ玉乃光、森本杜氏が目指すものが光り輝く玉の雫となり、世の人の喉を潤す日が楽しみなのは筆者だけではないでしょう。

人の和がいい酒を造る
「最高峰の酒を造っていきたい」と森本杜氏