歴史背景

銀盤酒造株式会社

真精吟醸蔵の誇りをかけた、新生の日本酒メーカーへの道

真精吟醸蔵の誇りをかけた、新生の日本酒メーカーへの道

酒造好適米の山田錦を35%にまで磨き上げる大吟醸が、清酒市場を席巻した平成の初期。超プレミアムな地酒として、脚光を浴びた富山の銘酒がありました。あたかも、フランスのコニャックボトルを髣髴させる「銀盤 純米大吟醸 米の芯(しん)」。原料米の心白をインスパイアするそのネーミングもあいまって、淡麗辛口な北陸酒らしいキレと旨味は左党の心を鷲づかみにしました。

米の芯の卓越した吟醸造りは、プロの酒匠やバイヤーから「真精(しんせい)大吟醸」と称えられ、醸造元である銀盤酒造株式会社の名を一躍全国に知らしめました。真精大吟醸とは、アバウトな精米歩合ではなく、米1000粒の精米をする前後の重さ比率から、米粒にブレのない正確な精米を行って醸した大吟醸で、往時の銀盤酒造は地酒ファン垂涎の的。山田錦の自社精米にこだわり、全国新酒鑑評会で26回の金賞受賞、高精米の麹造りによる吟醸造りのヒット酒が続き、製造量は3万石と最高潮に達していました。

「ただ、経営も製造もトップダウンの家業主義でした。完成した酒の評価、品質チェックはすべて経営者の一存で決まり、NGが出れば、製品化はされない。その厳格なルールによって吟味された酒を安定した品質で量産し、ブランド力を高めたのは、銀盤酒造が今も矜持している“オリジナルな自動装置化”です」

当時の記憶を語るのは、かつての経営者に叩き上げられた中陳 理(なかぢん まさる)酒造部 兼 製品部 副部長。製造工程を自動システム化し、製麹機や濾過器などをカスタマイズする技術者でもあった経営者は、その大胆かつ革新的なアイデアに、酒造業界から熱い視線を注がれていたそうです。

銀盤 純米大吟醸 米の芯
銀盤 純米大吟醸 米の芯
中陳 理 酒造部 兼 製品部 副部長
中陳 理 酒造部 兼 製品部 副部長
全国新酒鑑評会は、26回の金賞
全国新酒鑑評会は、26回の金賞
自動装置化で、安定した品質を生み出した
自動装置化で、安定した品質を生み出した

量産を追求しながら品質にブレのない、研ぎ澄まされた銀盤酒造の吟醸酒には、特筆的な工程がありました。それは“濾過”へのこだわり。新潟県を筆頭に、吟醸酒を手掛ける地方の蔵元にとって、活性炭の使用を含めて濾過する製法が主流だった頃、酒の雑味を取り、滑らかな風味に整え、色味も澄み、誰もが飲み飽きしない、爽やかな優等生の味わいに仕上げる秘訣をつかんでいました。初めて口にする県外の辛口消費者からは「意外と優しくて、甘い印象だね」との声も聞こえました。

実は、その理由には銀盤酒造の精米歩合の高さが存在したと中陣 副部長は答えます。

「普通酒以外の特定名称酒は、60%以上の精米歩合。つまりは近年流行りの磨いた米の旨味を追求する特別純米、特別本醸造といったジャンルを、すでに先駆けていたわけです。ところが、平成15年(2003)頃にアルコール市場を賑わした焼酎ブームに、清酒の消費量はじりじりと後退します。以後、芋焼酎を中心とした本格焼酎と呼ばれるジャンルが勢力を増すと、全国の地酒ブランドとともに銀盤酒造の県外市場も影響を受け、シェアは下降。さらには、少子高齢化時代の予兆として、ヘビーユーザーの晩酌酒の消費が減り始めたことも原因でした」

酒を造れば売れる時代は終わり、売れる酒を創り出す時代が到来する中、変革のうねりに銀盤酒造は乗り遅れてしまいます。いわゆる嗜好品の価値観が、万人にウケるブランド品ではなく、他にはない個性やこだわりの商品にシフトする傾向は、清酒商品にも顕れました。いわば、各地の名門酒ブランド離れが起こっていたわけです。

その後10年余りも打つ手をこまねく中、家業から社業への刷新、組織としての酒造メーカーによるマーケティング戦略が銀盤酒造の命題となったのです。

量産と安定品質を追求した
量産と安定品質を追求した
量産と安定品質を追求した
量産と安定品質を追求した
濾過へこだわる酒質
濾過へこだわる酒質
売れる酒を創り出す
売れる酒を創り出す

平成29年(2017)、銀盤酒造はジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社へ経営を譲渡、旧態然とした体制から大転換しています。

まず手がけたのは、増え過ぎていた商品ラインナップの集約とブランディングの再興です。100アイテム以上あった商品を現在は60アイテムほどに減らし、個々の商品価値を高めています。流通に求められるままに商品開発するのではなく、売り場とお客様に密着できる物しか開発しない方向に舵を切ったわけですが、思うに5割近い商品群を削るのは、地方の名門蔵といえども死活問題。逆に、従来の銀盤ファンを失うことにも通じるはず。それを敢行できたのは、経営譲渡という節目でもありました。

しかしながら、ここ数年流行りの無濾過生原酒や甘い日本酒へ傾注するのではなく、あくまで銀盤ブランドは、長年、地元に愛飲されてきた飲み飽きしない辛口、精米品質の良さを押し出していくことを変えません。さらに製造量もスリム化し、7000石にまで絞り込んでいます。

「私たち社員は、ネガティブな経営譲渡ではなく、1世紀を越えた吟醸蔵の真骨頂と威信を胸に新しい銀盤への道をスタートしています。今の清酒市場を鼓舞する特定名称酒の比率を上げることは当然ですが、一方で、銀盤は富山県のお客様に愛され続ける晩酌酒であるべきだと実感しています。そこには、当社の培ってきた装置的な製法と安定した高品質を両輪にし、何よりも我々社員が、銀盤を愛し続けることだと思います」

蔵の中を案内してくれる中陳 副部長の力強い声が、活気ある製造現場に響きます。その玄関で目を惹くのが「LOVE 銀盤! MOVE 銀盤!」の躍動感あるコピー。経営譲渡の際に、新たなオーナーから提言されたスローガンで、朝礼の際に社員が唱和するフレーズになりました。

お客様に愛される酒へ甦るためには、まずは、社員自らが行動し、愛する銀盤酒造に生まれ変わろう!

熱い思いが込み上げてくる斬新なスローガンの意味は、次の蔵元紹介でご紹介しましょう。

ラインナップを集約
ラインナップを集約
吟醸蔵の真骨頂と威信を胸に
吟醸蔵の真骨頂と威信を胸に
LOVE 銀盤! MOVE 銀盤!
LOVE 銀盤! MOVE 銀盤!