若者にとって、酒って何だろう?

解体新書 第9回

こんなシーン、憶えていますか?

前回までで、オトーさんたちの飲酒動向について述べましたが、では最近の若い人たちの飲み方には、どんな変化があるのでしょうか。
一番の変化は渋谷のハチ公前の待合せの人数にあります。6~7年前までは5~8人で待合せていた若者達が、ここ数年は3~5人で待合せることが多くなってきているようです。

はて、なぜでしょうか。
6~7年前の、ある風景です。
いかにも「これから飲むぞー」って感じの若い人が、渋谷のハチ公前広場で人待ち顔で立ってます。そのうち仲間達が集まり始め、3人になり4人になりしますが、未だ動きません。
「あいつ、遅せーなぁ」なんて言いながら、誰と誰が付き合い始めただの、誰と誰は切れただの、与太話が始まります。
「そんでさぁー、アイツ酔った拍子に別の女と浮気して付き合ってっこと、彼女にしゃべっちまったらしいんだよ。日頃ビールしか飲まねぇ奴が、カッコつけて吟醸酒なんか飲むからだよなぁ。」
すると、別の男性。「でも、その気持ちも分かんねぇでもねぇな。確かに吟醸酒とか飲むと、酔っ払っても頭が痛くなんねぇもんな。アトのこと考えっと、彼女と地酒ってのもいいと思うもんなぁ。」
「アトのことって、ろくなこと考えてねぇからツッツクスイスイ飲み過ぎちまって、彼女より先に酔っ払っちまうんだよ。それにしても、アイツ遅せぇーなぁ。あとアイツだけだろ、未だ来てねぇの。ンで、アイツ来たら、この人数でどこ飲みに行くの?」
そのうち問題の「アイツ」が「ワリィ、ワリィ」なんて言いながら、意外に元気に登場して人数は7人。
「ンで、結局どこ行くんだよ」と言いつつ、未だ店も決まらないままセンター街へ消えていきます。後を追ってみれば大体はオオバコものの居酒屋に入り、中は仕切りがついている程度の座敷とテーブルで、「ご宴会60名様までOK」なんて書いてある店だったものです。
店中が見通せる店内なので女の子も安心ってやつで、ジーンズ姿の若い女性も中に混じって一緒に飲んでおり、チューハイの生グレープフルーツ割りなどが流行り始めましたし、「8名様で焼酎1本サービス」あたりが受け狙いでした。

今じゃ、女性主導型のお店選び

最近はどうでしょう。 まず待合せ人数が減りました。確実に男性が先に来て待っており、最後に女性が登場しますが、「お久し振りー」なんて言いながらもタタズムことなく先頭に立ってそのまま歩きつづけ、アトを男性2人が追いかけるようについて行く……。 そんな光景が増えました。 「どこ飲みに行くーっ」なんて言いながらセンター街に入れば、まして人数が多ければ、オオバコものの店になりますが、最近では行く店は決まっているようです。 先ほどの先頭を歩いている女性には、もう既に行く店のアテがあるらしく一直線に歩いており、アトから行く男性2人には、これから行く店の決定権も選択権もありません。 財布を握ってついて行くだけです。 どんな店に行くのかと思えば、これには余り傾向はなく、ただ共通しているのは、何か必ず一つは特徴のある店だということです。 アン肝だけは美味しいとか、チーズ料理だけは凝っているとかです。一時は無国籍風というか究極のミスマッチ的なものも流行りました。 ごく最近では店内の内装の方に特徴が出てきて、オオバコ風の見通せる店なのに座ると隣の席が気にならない。だからと言って個室ではなく、2人~4人づつの範囲内で飲みながら、全体的にはオープンなのにパーティーションなどで仕切られて、別のテーブルの目や会話は気にならないようにしている店。 女性から見て安心感がありながら、個々の空間は独占できている。 そんな内装のお店が流行っているようです。

あっさり、スッキリ、クセなく飲む主義。

飲んでいるお酒は正しくグローバル化しており、アルコール濃度は高くなく、その割には液単価には余り躊躇せず、酔っ払うための飲料ではありません。
たしなむ‥でもなく、ならノンアルコールでも良いのかと言えば、アルコールそのものは入ってなければならないようです。
「おいしさ」の例えは「飲み易い」「サッパリしている」に集約されつつあります。
自分にとって、クセのない仲間とクセのない酒で、平らかな時間を楽しむことが、今流の若物の飲食文化かも知れませんね。
さて次回は、こうした変化をもたらした若い女性がお店の決定権を持っている、そのことを察知した流行るお店と、そこから生じる料理の変化。そして、料理の変化が及ぼす酒の味の好みの変化、について考えてみます。