水・米・技の紹介

株式会社山本本家

300年培った技術力を活かし、新たな挑戦を続ける

300年培った技術力を活かし、新たな挑戦を続ける

山本本家が酒造りに機械設備を導入したのは平成元年。蔵人の高齢化が進む中で、それまで磨き続けてきた技術力を最大限に活かすために、力仕事の労力を機械設備で担うための決断だったそうです。杜氏や蔵人を確保しやすい地方への移転という選択肢もありましたが、山本本家はより良いお酒を造るために「伏見の水」にこだわることを選択したのです。

そして、「当社の機械造りだからこそ良いお酒が造れるのです。」と山本社長は自信を見せます。「世間では“美味しいお酒は手造り”というイメージを持つ方もいらっしゃいますが、それはノスタルジーが影響しているのではないでしょうか。機械造りだからこそ、すべて手造りする以上に大切なところに手を加えられます。手造りでやることのすべてを機械造りにできるわけではありませんが、蔵人の負担を減らすために機械を使い、手造りと同様の造り方をすることで、より良いお酒造りを目指しています。」

山本本家の酒造りを担うのは、寸田顕工場長と加藤直樹製造部長をはじめとした社員や蔵人の方々。機械設備による酒造りの流れを説明してくださった寸田工場長は、やはり酒造りには経験と技術が欠かせないと言います。

「その日の気温や湿度、酒米の状態によって、機械の設定を微妙に調整しなくてはいけません。そのため、どれだけ機械設備を導入しても、酒造りには造り手の経験と技術が必要になってきます。」

加藤製造部長は、酒造りの技術力を伸ばしていくためには、五感を磨くことが大切だと言います。

「これからの酒造りの担い手である20代の社員には、自分の感性を磨くように言っています。例えば、わかりやすい例で言えば、味覚を磨いて利酒ができるようになれば、それは酒造りに直接活かせますよね?さまざまな感性を研ぎ澄ませていくことが酒造りには大切です。」

そして、もうひとつ酒造りに欠かせないのが「考える力」だと加藤製造部長は言います。若い社員には、まず自分で考えて仕事をしてもらい、失敗するギリギリまで声をかけないようにしているのだそうです。

山本本家のお酒についてお聞きすると、「私もお酒を飲みながら食事をするのが大好きなのですが、やはり食事の邪魔をしないお酒が個人的にも好きですね。ですから、私の理想とするお酒と山本本家が目指すお酒は合致しています。そして、そうした口当たりのいい繊細な味のお酒は、軟らかい名水が湧き出る伏見だから造れるものです。」とのこと。

ここで山本本家のお酒が造られています。
巨大な機械設備は圧巻です。
加藤直樹製造部長(左)と寸田顕工場長(右)。
麹や醪造りの細かな設定は人間の手で行ないます。

現在山本本家では、京都で栽培した酒米の「祝」や、京都市産業技術研究所の酵母を使った酒造りを始めています。「すべて京都産の原料を使って、おいしいお酒をつくれたらいいですよね。」と加藤製造部長は楽しそうに話します。京都市産業研究所には醪造りのデータ分析を依頼するなど、まさに地域が一体となって品質向上に取り組んでいます。

かつては酒母なしで醪をつくる画期的な製造方法を開発し、名誉ある「江田賞」の受賞経験もある山本本家。古くから酒造りにおいて試行錯誤と改良を続けてきました。その品格ある味わいは、今後も磨きがかかっていくことでしょう。

山本本家からほど近い場所で栽培されている酒米「祝」の写真

山本本家からほど近い場所で栽培されている酒米の「祝」。低たんぱく質の「祝」はかつて、山田錦と並ぶほどの酒造好適米とされていましたが、育てにくく収穫量が少ないこと、そして酒造りが困難だったために長い間姿を消していました。しかし、伏見酒造組合の働きかけにより復活し、山本本家などによって「祝」を使ったお酒が商品化されています。