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株式会社山本本家 ~水・米・技の紹介

株式会社山本本家は人間力と設備力を駆使して、高品質かつ合理的な酒造りをモットーにしています。
それをコントロールして、食中酒として安定したアベレージを生み出しているのが、広島大学工学部発酵工学科出身の伊藤 茂 製造部長です。
大学卒業と同時に伏見の酒蔵に入り、以来、伏見の酒造り一筋に励んできたプロフェッショナル。平成2年(1990)から山本本家の酒造りを司っています。

「当社の酒造りは、労力的な負担を機械設備に任せ、人の智恵や経験値をフルに駆使しようという方針の下に出来上がっています。ですから、フルオートメーションの大メーカーのようにはマンネリ化しません。どんな物作りでも、一度方法を変えてしまうと、人の考えや感性はなかなか元に戻りませんね。つまり課題や問題が起こっても、そのまま、お座なりに済ませてしまいがち。しかし、機械設備の場合はバージョンを更新したり、新しく導入すればいつでも修正がききます。ですから、そこをしっかりとキープしておいて、本来の人の能力を活かすところを強化してきたわけです」
広島大学で発酵工学を修得した人物だけに、酒造技術者として一流の伊藤部長。その本意をもう少し掘り下げながら、山本本家の酒造りとはいかなるものなのかを語ってもらいましょう。

「私は、製造設備がしっかりと整っている場所で酒を造る方が、酒造りの本質を早く知ることができると思っています。美味しい酒は、見た目の形やムードで造られるのではありません。ありがちな、“手造りだから良い酒、機械造りだから悪い酒”という判断は、当社の酒を飲んでから言って頂きたいですね。一般に製造機器は、人が設定を変えない限り同じ製品を造り出すと信じられています。つまり、手を抜こうと思えば、同じ設定で済ませてしまえるということになります。でも、酒造りには、これが通用しません。そんなことをすれば、例えば、出来上がってくる麹は必ず違ってくるんです。毎日、温度や湿度が違いますからね。つまり、同じ麹を造ろうとすれば、機械の設定を日々の環境や条件を考慮して、毎日微妙に調整しなければならないのです。その細やかな設定変化をどう判断するかは、人間の智恵、経験、五感を鍛えるほかに方法はありません。ですから、決して手抜きなど、できないわけです。高品質を維持するためには、その酒の再現性という課題があります。しかし、造った人間にしか再現できないというのであれば、会社は困ります。しかし、機械設備はその不安が極めて少ない。その性能を知れば知るほど、人は失敗しなくなります。例えば、AさんとBさんの二人が機械を動かすとして、私が何も言わなければ、彼らは自分で迷いながらも操作しなければなりません。その結果、ダメとなれば、なぜダメなのかを知ろうとする。温度を考える、湿度を考える、米の種類を考える、蒸し加減を考える、そんないろいろな条件の違いを考えながら、機械のセッティングを覚えていきます。ですから、ある一つの設定で通せば、毎日違った酒ができてしまう可能性は高いが、同質の酒を再現しようとするなら、毎日、機械設定を違えていく必要があるわけです。確かに単一設定の酒蔵もありますが、当社は違います。毎日機械に触れることで同じ品質を造り出す、それが当社の酒造りです。ですから、A・B両人とも必死になって機械を理解し、習熟します。これができないかぎり、まともな酒など造れないと知っているからです」
その熱い語り口に、伊藤部長の品質へのこだわりと技術革新への取り組みが、ひしひしと伝わってきました。




それでは具体的な酒造りの素材について、その特長を説明してもらいましょう。
「当社の仕込み水は、伏見七つ井の水脈の一つである“白菊水”です。その品質は、中軟水。鉄分やカルシウムの少ない酒造りに最適の水です。良い麹を造るには、蒸米がポイント。その水には、もちろん白菊水を使います。蒸した米を見て、触って、味わって、自分の五感を総動員して、最高の蒸米を体で覚えなければいけません。だから私は、蔵人には『暇があれば、蒸米を手にしろ』と口酸っぱく言い続けています。蒸米がおかしいとなると、洗米の仕方を変えてみようか、浸漬時間はどうなんだ、外気温はどうだった、湿度はどうだ、などと考えをめぐらせるはずです。それが酒造りの大前提だと言っていいでしょう。これだけは機械設備に任せず、人間が肌で覚えるしかない分野です」
酒造りの基本は麹造りですが、そのまた根本は“原料処理”にあると伊藤部長は言います。つまり米粒の磨きから洗い、浸漬、そして蒸し上げの段階で、ほぼすべてが決まってしまうのです。

そんな酒造好適米についても、もちろん技術者としてのこだわりはありますが、今年はこの米を主として使うと山本社長に命じられれば、その米に全力を注ぐのが自分の使命だと、いかにも技術肌の達人としての回答が返ってきました。
ちなみに同社では、精米歩合40%の大吟醸クラスには山田錦、50%精米の中吟クラスの酒には八反錦や五百万石といった酒造好適米を使用し、そのほかにも酒造適正の高い酒米を使用しています。

寸田工場長が近年懸念している問題の一つに、酒造好適米の生産量の減少があります。
つまりは、国の減反政策による酒米変化と、それによって仕込む製品を調整しなければならないという、何とも不条理な関係です。

「近年の清酒需要の減少から、本醸造クラスの製品が減りつつあります。普通酒と吟醸酒の間にあって原料にさほど高級な米を使用しませんから、このクラスの米の生産が打ち切られたりすることもあるのです。

当然、蔵元としては製品を止めるわけにはいきませんから、これに変わる好適米を探すのですが、以前と同じ酒質や味わいを再現するとなると難しいですね。米の購入には昔から業界ルートが決まっていますけど、ここに至って伏見という銘醸地でも、契約農家との直接取引という購入手段も課題になっているようです」

伊藤部長の情報によれば、国内の大手メーカーではオーストラリアやベトナムなど海外からの米の輸入がすでに具体化しつつあるとのこと。その状況をしっかりと観察しながら、厳しい現状に対していくことで、次なる山本本家の新しい酒造りが見えてくるはずと自信を覗かせます。
若手の成長も著しく、まずは安心して任せられるスタッフも増えてきたと、表情をほころばせる伊藤部長。その双肩に、次なる神聖ブランドの登場を期待しましょう。