水・米・技の紹介

ヤヱガキ酒造株式会社

万人に飲まれる酒でなく、万人の一人に飲まれる酒を

万人に飲まれる酒でなく、万人の一人に飲まれる酒を

ヤヱガキの酒造りを半世紀近く担ってきた「現代の名工」田中博和 前杜氏。

田中前杜氏は但馬杜氏の里、兵庫県美方郡のご出身。
そもそも、冬は雪深いこの地域、冬の農閑期の出稼ぎに全国の蔵元に出向き、酒を作ってきた知識と技術、経験が今日の但馬杜氏を生み出しました。
田中前杜氏の父親や親戚も杜氏を務める、生まれながらの酒造りのプロ、父親に憧れ酒造りの世界に飛び込んだのは16歳の頃だったとか。

その田中前杜氏の後を受けて、平成30年8月に後継の杜氏に就任したのが地元姫路市出身、初の社員杜氏である佐藤直樹。
佐藤は、平成元年 ヤヱガキ酒造に入社、当時、蔵人全員が但馬からの出稼ぎであった時代に蔵仕事を手伝いながら、研究室で酵母の研究等を行い、八重垣の酒造りを支えてきた。平成26年秋から蔵に入り、田中前杜氏の指導のもとで、改めて酒造りを学び、技術の継承を行う。

「引き継ぎに3年、代行1年の後、正式に杜氏と言うことになりましたが、今になって思えば入社後、20代の頃に日々、蔵仕事を手伝っていたのが大いに役にたちました。」 と佐藤杜氏は語ります。

平成30年7月には、田中前杜氏を引き継ぐ形で但馬杜氏組合にも加入し、但馬杜氏としてその伝統の継承にも関わることになりました。 蔵元も先代社長(会長 長谷川雄三)から現社長(長谷川雄介)に代替わりし、清酒を取り巻く環境も国内では量よりも質の時代へ、また、海外でも多く飲まれるようになるなど、大きく変化しています。
求められるお酒の味も自ずと変わってきていますが、これまで培ってきた大切な部分を守りつつ、新しい味の創出に努力していきたいです。

但馬杜氏 田中 博和 前杜氏
佐藤杜氏と田中前杜氏

まずはヤヱガキの酒を造る水について聞いてみました。
「林田川の伏流水を使用しています。この水は中国山系の伏流水で柔らかくておいしい水です。揖保川、林田川のまわりには素麺メーカーやコーヒーメーカーなど“いい水”が必要な企業が沢山ありますよね。」
この水を使うと飲みやすくキレがある上品な酒に仕上がると佐藤杜氏は語ります。

「次に米ですが、なんといっても兵庫県は山田錦の産地としても有名です。日中は気温が高く、夜は六甲山のふきおろしで冷える、この寒暖の差が山田錦の栽培に最適なんでしょうね。山田錦は心白も大きく、よい麹が作りやすいですよ。」

造りについては、機械造りを廃止し、質のよい酒を造るヤヱガキ酒造。その造りへのこだわりもひとしおのものではありません。
「人の肌で温度や感触を確かめながらやるのと機械が時間を計ってやるのでは酒の味が全然違ってしまいます。微妙な温度調節や麹の様子を見ることは機械ではできません。手で触り、米に含まれる水分を見るんです。温度を均一に保つために上下を返して、これをひと時も目を離さずチェックするんです。そして麹がしっかりできているか、手触りで判断する。いい酒には元気な酵母が必要です。それが活動しやすいよう、指示を出すのが杜氏の仕事です。やっぱり酒は生き物ですから、放ってはおけません。」

また、ヤヱガキの酒というと、まず思い浮かぶのは純米大吟醸『無』。
続いて杜氏にこの酒について聞いてみよう。
「純米大吟醸『無』は麹米に山田錦を、掛米に五百万石を使用しています。こうすることにより、山田錦だけで造るより、キリリとまとまりがよくなります。山田錦だけで造るとおいしいのですが、何杯も飲むというわけには行きませんよね。掛米に五百万石を使うことにより、大吟醸だけれど2杯3杯といけますよ。」

杜氏の経験と技術が醸す、極上の酒。
深い愛情が注がれた杜氏が造る酒は、おのずと呑む人の心を潤す酒となるのだろう。

清流 林田川
手で触り、酒と話をする
手で触り、酒と話をする
純米大吟醸 青乃無

それでは最後にこれからの抱負を聞いて、インタビューを終わるとしましょう。

「蔵人として4年、杜氏としてはこれからですが、八重垣に入って30年、その間、技術者、研究者として酒造りに関わってきたことは、これからの杜氏としての仕事にもプラスになると思います。田中前杜氏の優れた部分はしっかり受け継ぎながら自分なりの酒造りを模索していきたいと思います。」

杜氏の造る酒に期待