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国稀酒造株式会社 ~水・米・技の紹介

増毛の軟水と道産米を愛する、南部流の道産子杜氏。

東谷 浩樹 製造部長・杜氏

しんしんと冷え込む、極寒の増毛町。巨大なつららのぶら下がる蔵棟では、鑑評会に出品する大吟醸の仕込みが最盛期に入っています。アルコール発酵の香りは蔵の空気が澄み切っているせいか、優しく、穏やかに感じます。

そこで、一人黙々と利き酒をしていたのが、国稀酒造㈱ 製造部部長の東谷 浩樹(ひがしや ひろき)杜氏です。カメラを向けるとはにかみつつ緊張を覗かせる横顔が、奇をてらうことなく真っすぐに美味しい国稀の味わいを髣髴とさせます。
「出身は、道東の足寄町です。帯広畜産大学の農産化学科を卒業してから、平成3年(1989)に道内の清酒メーカーへ入社して13年間勤務した後、焼酎メーカで8年間。そして、国稀酒造㈱へは平成24年(2012)の秋に入社しました」

今年で48歳、酒造り25年目を迎える練達の技にインタビューの期待が高まります。それでも「まだまだ、毎年1年生の心構えでやっていますよ」と謙虚な言葉が返って来ました。
ゆるりと答える東谷杜氏に、大らかな道産子らしさを実感します。

15名の現場体制
食中向けの酒造りが基本

現在、東谷杜氏が取り仕切る酒造現場は15名体制。地元・増毛町出身の若い蔵人から熟年のパート社員まで、和気あいあいとした雰囲気に満ちています。しかし、4000石の生産量を支えるために、東谷杜氏は製造部長としてマネージメントも兼務。いわゆる酒の仕込みだけでなく、原料仕入れ、品質管理、瓶詰めラインなど、広大な蔵と設備をすべて管理しています。
「この10年間で設備投資や合理化が進み、サーマルタンクも導入して品質管理は充実しています。当社の酒には無濾過生原酒などがありませんし、香りを重視する吟醸造りも少なめです。従来の速醸酵母を使った、食中向けの酒造りが基本なのです」

東谷杜氏が櫂棒を揮う仕込みタンクは、現在29本。その6割近くが普通酒で、ほとんど道内で消費される晩酌酒になることは驚きです。

柔らかな暑寒別岳の伏流水

まずは南部流の国稀造りについて、美味しさの特長を訊いてみました。
筆者は、北海道の地酒はおしなべてスッキリして飲みやすく、余韻にまで瑞々しさを感じます。
「やはり誰にも飲み飽きしない、柔らかな辛口でしょう。ですから、酒の肴にしましても、食材そのものの旨みを引き立てます。この国稀の個性は、仕込み水にあると思います。おっしゃるように、道内には淡麗な旨みの酒が多いのですが、地域ごとに水や米を育む風土が異なるので、微妙に味はちがっているようです。当社は暑寒別岳からの伏流水の湧き水で仕込み、水質はアメリカ硬度で18~20の軟水。実は、私もこれほど柔らかな水は、増毛町に来て初めて出会いました」

低温発酵で、じっくりと時間をかける

かつての酒造現場では、硬度60前後の軟水がほとんどだった東谷杜氏。暑寒別岳の軟水は、特にゆるやかできめ細かい発酵を促すので、低温を維持し、時間をかける仕込みに腐心しています。

また、道産子だけに本州や関西の地酒と巡り合う機会は少なく、やはり北海道の食文化にふさわしい、重たくない味わいを大切にしていると語ります。

道産米の品質は、向上している。 淡麗になる北雫は、国稀にふさわしい

低温発酵は麹米の旨味を丁寧に引き出しますが、それは原料米の甲乙によって異なります。北海道産の酒造好適米を目標値として5割使用する計画は林 眞二 社長のインタビューで聞き取りましたが、東谷杜氏はどう考えているのでしょうか。
「元来、北海道の酒造好適米は品質が劣ると批評されていました。しかし、平成10年(1998)に開発された初雫(はつしずく)以後、かなり向上したと思います。当社では人気の吟風をメインにして、今シーズンは新品種の北雫(きたしずく)を使った試験醸造を行いました」

東谷杜氏によると、吟風は旨みとコクが出やすく、モロミに溶けやすい傾向。北雫は吟風ほどではなく、淡麗な酒精ができやすいので、まさに国稀の味わいにふさわしい米と期待しています。

吟醸造りは量的に少ない国稀酒造㈱ですが、もちろん全国新酒鑑評会の出品酒を始め、大吟醸クラスのラインナップには兵庫県産の山田錦を使用しています。それでも、増毛町との一体化、北海道の地産地消を掲げるなら、今後も山田錦を超える酒造好適米を開発する努力は必要だと東谷杜氏は熱く語ります。

東京など大都市圏で人気の無濾過生原酒や、オリジナル酵母の吟醸造りとは世界観の違う“北海道の物語がある酒造り”が国稀酒造㈱らしさ。いわば、オーソドックスな造り方こそ、地元密着型の国稀には重要でしょう。つまり、増毛町と北海道から信頼を得る酒造りを続けることも必須課題なのです。
このテーマに、東谷杜氏は北海道農協の連合会「ホクレン」を通じて、模索を始めています。

地元農家と胸襟を開く

「使っている北海道産の酒造好適米を作る農家の方々と、交流を持ちたかったのです。お互いの顔が見える関係を作ることで、より国稀の酒の価値やモットーを知ってもらい、胸襟を開いて語り合える関係を築きたいのです」

集まった農家の人たちへ、東谷杜氏は吟風をできるだけ心白が大きくタンパク質の少ない品質に仕上げて欲しいなど、忌憚のない意見を交換しました。その懇談によって肥料のコスト高や手間暇を惜しまない育成が必要と分かり、今後の合意点を見出すのに役立ったと語ります。

遅ればせながら向上している、北海道産の酒造好適米。しかし、一朝一夕にはいかない現状へ、東谷杜氏は地元の篤農家とタッグを組んで立ち向かおうと考えています。

情報交換で、若手育成を育成

東谷杜氏の下には、熟練の頭役、麹屋役の蔵人も数名、岩手県から訪れています。いわゆる南部流の季節蔵人と社員の混合チームですが、これからの若手育成の取り組みを訊ねてみました。
「私が酒造業界に入った頃は、まだ南部杜氏の厳しい徒弟制度が残っていて、技術を教わることはほとんどなく、体と頭で盗むのが当然でした。しかし今は道内の蔵元同士、現場の風通しは良いですから、原料、技術、法律的なことまで情報交換する機会が増えています。また、鑑評会の前には、国税局の鑑定官の皆様に指導を頂いています」

鑑評会の受賞も多い。

毎年、全国新酒鑑評会や北海道局の道産米酒鑑評会に出品する事前に酒の評価をもらい、その緊張感も含めて、若手指導に生かせると表情をほころばせます。
「酒造りを生きがいにしている杜氏や蔵人なら、誰でも出品する限りは、賞を獲りたいはずです。しかし最も大切なのは、その腕を持ってして、自社の根本にある酒造りをいつも安定させて、どなたにでも美味しいと言って頂ける、手頃な商品を醸すことじゃないでしょうか」

なるほど、平成26by全国新酒鑑評会 金賞、平成27by北海道局 純米酒の部 金賞を受賞した東谷杜氏の腕前が、その言葉に垣間見えます。

情報交換で、若手育成を育成

今期は、新たな酒のテストを繰り返していると東谷杜氏は打ち明けてくれました。
その酒質は山廃仕込み。商品概要やスペックまだシークレットですが、国稀らしい飲み口を変えることなく、少しだけ個性を持たせたいと言います。

軟水の低温発酵から生まれる正統派の山廃仕込みの酒は、どのような味わいを醸すのか。日本酒ツウなら、最北端の山廃酒を飲んでみたくなります。

北海道は本州に比較すると、特定名称酒への嗜好性などで遅れていると筆者は聞いていました。ようやく札幌には人気の東北や関西の銘柄を集めるこだわりの料理店も登場し、これから特定名称酒の市場が本格化するようです。
そんな場で、新たな「国稀」の美禄が増毛町とともに注目されることを期待し、筆を置くことにしましょう。