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株式会社醉心山根本店 ~蔵主紹介

「当社の大観記念館は、祖父・薫の意向で昭和26年(1951)に落成しました。大観先生以外にも、河合 玉堂(かわい ぎょくどう)、菱田 春草(ひしだ しゅんそう)といった錚錚たる方々の作品も収蔵しております。特に大観先生の作品は直接ご本人から拝受し、鑑定士を通っておらず、装丁していないものばかりです。これらを3年に1回、文化の日に一般公開しておりますが、私一人で準備・段取りをしなければならないので、とにかく大変なのですよ」
蔵元五代目の山根 秀朋(やまね ひでとも)会長は、にこやかに相好を崩します。
大観記念館は重厚な土蔵ながら、収蔵品の保管には天候・温度・湿気など神経を尖らせることが多いそうです。しかし、世界的にも著名な大観の、しかも無鑑定品となればその価値は計り知れないものでしょう。事実、過っては方々の美術館に収蔵作品を貸し出すこともあったそうです。


「いまだ貸したことのない、未公開の壮大な作品もありますから、一人でも多くの方にご覧頂きたいですね」
その一言に、高ぶる筆者は身を乗り出し「いったい、どんな作品ですか?」と質問。
山根 会長の解説によると、これは「宇治川絵巻」という長尺作品で、驚くなかれ全長72尺(21.6m)。大観記念館の十畳二間を使っても、3回に分けて繰り広げなければすべてを展覧することはできないそうです。
冒頭の話しも含め、三代目・薫以後の山根家当主の文化活動に頭が下がる思いです。

さて、前置きが長くなりましたが、それでは山根 秀朋 会長のプロフィールをご紹介しましょう。
山根 会長は、昭和17年(1942)生まれ。蔵元の長男ですが、物心付いた頃から酒蔵を継ぐことは考えていなかったそうです。
少年期から青年期の昭和30年代、山根 会長の心には、ほのかな憧れが芽生えていました。ロマンと冒険に満ち、華やかな脚光を浴びていた船乗りの世界を目指したのです。
昭和35年(1960)東京商船大学航海科に入学した山根 氏は、帆船「日本丸」で海洋実習を繰り返し、卒業と同時に日本郵船株式会社に入社。一等航海士としてタンカー、コンテナ船に乗り込み、15年間世界の海を又にかけてきました。
しかし、昭和55年(1980)に父親の卓三が大病に倒れたため、やむなく陸へ上がり、今度は蔵元の舵を取ることになったわけです。
「38歳で始めた蔵元なので、当初は見よう見まねでした。商売も未経験でしたから、まずは業界の仕組みや酒税法を研究し、上手に会社の負担を減らそうと四苦八苦の毎日でしたね」
そう振り返る山根 会長ですが、コンパスやレーダーを駆使する航海学は、経営学にも通用するものだったようです。第一次地酒ブームから世の中がバブルに浮かれた第二次地酒ブーム、デフレスパイラルに巻き込まれた最近の日本酒低迷まで、市場の追い風や嵐を的確に読み取りながら堅実な蔵元業を営んでいます。

今、醉心山根本店は「超軟水の酒」を大々的に謳い始めましたが、この方向性も含め、現在の日本酒市場分析とこれからの醉心とは何なのかを、山根 会長に訊いてみました。
「思い返せば平成元年(1989)に級別制が廃止となって、どこの蔵元も消費者志向の自由競争に期待したのですが、それは糠喜びでした。キッチリとした税制という箍が外れたことで、酒の優劣が非常に不透明になったのです。そして、酒販免許もオープン化し、酒の売り場が小売店からスーパーやコンビニに変わり、結果的にレギュラー酒クラスで2ℓの紙パックが出現しました。ここからデフレ時代へ突入し、低価格競争が加速。そのため原料や工程コストは削減され、今や本当にどれが美味しい酒なのか分からなくなっています。

経済白書ではようやく日本はデフレの闇を抜け、回復基調にあると述べていますが、実はそれは一部の階層だけで、大多数の庶民の生活、消費活動は伸びていないのです。当社ではそんな曖昧模糊とした情報に惑わされず、さまざまな角度から日本酒市場を見つめ堅実な酒造りを続けてきましたが、やはり上級クラスの吟醸酒がじわじわと落ち込んできました。そこで、一念発起して抜本的な改革を開始し、5年前に超軟水“ブナのめぐみ”を発見したのです」
山根 会長の改革とは、混沌とするこの時代に醉心本来の伝統・哲学を取り戻すことでした。気がつけば市街地の進化、土地開発などの影響で地下水は中硬水へと変化し、酒の味は太くなり、もはや歴代蔵元が守ってきた軟水仕込みの技も忘れていたのです。
“ブナのめぐみ”は、硬度14の超軟水。これを使用する前まで、モロミの育成期間は24日を経ていましたが、現在は34日かけてじっくりと醸しています。つまりはコストもリスクも高くなるのですが、本当に美味しい軟水の酒を得たいなら骨身を惜しんではならないと、山根 会長は言葉を続けます。
「とにかく、この五年間を一所懸命にやりました。多くのお得意先がブナのめぐみで醸した大吟醸を試飲して下さり『本当に美味しくなったね』とお褒め頂きましたが、私は確かな手応えが欲しかったのです。そこで、これと同じ酒を平成12年(2000)から3回連続して全国新酒鑑評会に出品したところ、すべて金賞を頂きました。

思いますに、大観先生が愛飲し、祖父の薫が精魂込めて造り上げた軟水の酒は、本当に美味しかったはずです。いかなる時代にあっても、美味しいと評価される醉心。それが、今こそ私共のテーマなのです」力強い山根 会長の口調には、並々ならぬ決意と自信があふれています。

醉心山根本店では、代々の蔵元がそれぞれの時代において鮮烈なエポックを巻き起こしています。特に、三代目・薫の瓶囲い貯蔵の考案、四代目・卓三の山田錦を使った純米大吟醸の醸造は、どちらも業界で初めての挑戦でした。
五代目の山根 会長が発見した超軟水“ブナのめぐみ”も、近い将来さらに話題になると筆者は思います。そこで、この新しい醉心の味をアピールするポイントを述べてもらいました。
「リニューアルした当社の商品コンセプトは、“辛口でありながら、ほのかな甘味がふくらむ酒”です。祖父の薫の言葉を使えば“旨口(うまくち)”になるのですが、これは現代の消費者には、分かりにくい表現です。これを上手く説明する工夫をしなければ、お客様には伝わりません。だからと言って、蔵元が『これは、最高の酒なんです』と専門的な薀蓄を並べ自画自賛しても、それは消費者にとって魅力的ではありません。ポイントは、その酒を本当に美味しいと感じさせる演出や雰囲気作りです。昔の酒販店には、話し上手で好感度のある店員さんがいましたが、スーパーやコンビニ、百貨店でも最近はそんな人たちが少なくなりました。ですから、酒の楽しみ方をコーディネートできるスタッフやステージを作り出すことも、これからのメーカーの課題でしょう」

今回、超軟水仕込みの酒をリリースした際も、一部のオールドファンや得意先は味が変わったことに難色を示しましたが、「醉心本来の美味しさ」を粘り強く解説することで、納得してもらえたそうです。
ちなみに“ブナのめぐみ”を使った新商品に、“ブナのしずく”シリーズがありますが、パッケージのキャッチコピー(ロゴ)は「辛口なのに甘露」「天然水の恵み」となっています。さらにはその説明コピーも記され、山根 会長の意図がよく理解できます。

緻密な市場分析や社会観を織り交ぜながらの山根 会長のインタビューは、ひとかどの人物であることを実感させます。
そこで筆者は、終章として「日本酒復活の課題とは何か!?」を単刀直入にぶつけてみました。
「大きな意味では、文化的に見て日本酒のあり方がズレてしまったと思うのです。と申しますのは、そもそも日本酒は日本人に一番合う酒であり、だからこそ、どんな料理にも合うわけです。しかし、昨今はのべつまくなし、“この料理に合うのがこの酒”とマニュアルのように紹介しています。ワインの場合なら、産地のぶどうに目が留まり、当然料理も限定的になりますが、日本酒に関しては、消費者はそれほど酒米へのこだわりを持っていません。この理由は、どちらの土地の日本酒も、最初はとにかく美味しい酒だったからです。ですから、今、大事なことは、千差万別 あるアルコールの中からお客様に選ばれる美味しい日本酒を、メーカーが一所懸命造ることでしょう。

その酒で食事のT・P・Oをどう楽しむかは、お客様の自由な発想に委ねること。それが本来の日本酒文化であり、これから考えるべき、再生の課題だと思います」
絵画や音楽と同じく、日本酒は日本人が培ってきた文化を手助けする道具に過ぎない。そして、文化とは根本的に人が頭の中で創っていくもので、物理的に与えられたり、シミュレーションするものではないと山根 会長は力説します。
「日本酒そのものの課題としては、第二次の地酒ブーム頃に、多くの蔵元が香り高い吟醸酒を若者に広げようとしましたが、香りが勝ちすぎて主たる食事にそぐわなくなりました。また、吟醸酒の高いコストが価格に反映し、デフレもあってユーザーの継続獲得が難しくなりました。ですから、これからは味が勝負、味でアピールする時代なのです」

“味のある旨口”がモットーの醉心だけに、山根 会長の締め括りの言葉はキラリと輝きます。 向学のために伺った座右の銘は、三文。

人生に於いて挫折をその踏石とすべし
生涯に於ける仕事は一つ
教養は多岐に及ぶべし

なるほど、醉心の美味しさには、山根 会長の人間味もふんだんに醸されているようです。