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黒澤酒造株式会社 ~プロローグ

暮れ行けば 浅間も見えず 歌哀し
佐久の草笛 岸近き宿にのぼりつ 濁り酒
濁れる飲みて 草枕しばし慰む

かの島崎藤村が詠んだ「千曲川旅情のうた」が、目にする雪の岸辺とは対照的に、夏の光景をおぼめかせます。
この詩の舞台となった佐久平(さくだいら)・小諸市より千曲の流れを南へ30km遡ると、そこは長野県南佐久郡佐久穂町。西は立科山、南を八ヶ岳、そして北には噴煙を立ち昇らせる浅間山と、標高2,000メートル級の山嶺を仰ぐ高原の町です。人口は11,000人未満、夏には清里や軽井沢から足を伸ばす避暑客で賑わいます。

浅間山の裾に開ける佐久平は、佐久穂町周辺に湧く豊かな水によって肥沃な土地を育んできたとか。なるほど、反対に千曲川が引き起こしてきた数々の増水被害から察すると、その自負も過言ではなさそうです。
しかし氷点下のこの時期、流れは厚い氷を張り、朝まだきの冷え込みは-15℃を超えることもあると聞きます。

緑萌える北八ヶ岳と白樺の森のコントラストは夏の八千穂高原の風物詩ですが、冬には、ファミリースキーを楽しむゲストで賑わいます。8コースをそなえたゲレンデには上質のパウダースノーが降り、スキーヤーたちに聞いてみると、埼玉県や山梨県では「穴場ゲレンデ」として人気を博しているそうです。

また、大自然に包まれる土地柄だけに、町ならではの産物も手作りにこだわる逸品が揃っています。今回訪問した黒澤酒造の地酒はもちろんのこと、他にも黒澤酒造が仕込みに使用する天然水「八千穂の湧水」、じっくりと熟成した「きたやつハム」、無添加の信州味噌など、手間ひまをかけた本物の味に思わず財布の紐もゆるみ気味です。

この旧八千穂村の名は、昭和32年(1957)の町村合併の際に旧名・畑八村の八、千代里村の千、穂積村の穂から考案されました。しかし、八ヶ岳の八、千曲川の千、稲穂の穂との別説もあり、のどかな山郷らしさを感じさせます。
古き時代の八千穂村は林業、養蚕、畑作を地場産業にしており、戦国時代は甲斐の名将・武田信玄が領する土地でした。

緋おどしの騎馬軍団の疾駆から生活物資の流通、駿河・遠州方面より長野の善光寺へ参詣する旅人たちを支えてきたのが「佐久甲州街道」で、町を縦走する141号線の前身です。元来は千曲川の東岸に沿った道のりでしたが、難所も多く、現在の西岸側へと移設されています。

JR高岩駅付近に屹立する「天狗岩」は、街道最大の難所でした。激流が逆巻くこの岩場は、宝永年間(1704~1710)には地元村々の取水口でした。

幾人もが命を落とす崖道に、村では「岩を穿って、洞門を普請して欲しい」と代官所へ直訴しますが、聞き入れられませんでした。時を経ておよそ100年後の文化14年(1817)、ようやく設けられたのが、砕ける崖の割れ目に丸太を差し込み、その上へ板子を敷くだけの「棚道」でした。

この道の下には「掛樋(かけひ)」と呼ばれる通水箱も添えられ、以後大正時代までの百余年、村里へ水を供給しました。
また明治17年(1884)に勃発した秩父事件の際には、峻険なこの難所に目をつけた残党が陣を構えましたが、政府軍の銃撃によって殲滅され、その慰霊碑が建っています。

この山紫水明の地をこよなく愛した偉人といえば、日本を代表する画伯・奥村土牛(1889~1990)です。奥村土牛は文化勲章を受章し、現代日本画壇の最高峰と賞される画家の一人。その独特の画風は、逝去した今も多くの愛好家から支持されています。
画伯は、第二次大戦中から戦後までの4年間、旧八千穂村に疎開しました。実はその住居兼アトリエとして使われたのが、旧・黒沢会館の離れの間。つまりは、黒澤酒造株式会社の旧屋敷であったわけです。

旧・黒澤会館は奥村土牛が世を去った平成2年(1990)に、「奥村土牛記念美術館」へと様変わりしました。昭和60年の秋、黒澤合名会社はこの建物を旧八千穂村の文化事業に提供し、奥村画伯の心の故郷でもあるゆかりから、記念美術館設立の運びとなったのです。
現在、その静謐な佇まいには、画伯から寄贈された約300点のスケッチ画、書簡などが収集・展示され、全国から見学者を迎えています。

滔滔と流れる千曲川、その営みとともに東信州ならではの美醺を醸してきた黒沢酒造株式会社。八ヶ岳連峰の瑞々しい自然と涼やかな風土が織りなす味と技は、きっと一級の芸術家の感性をも潤したことでしょう。
さて、それでは銘酒「井筒長」の詩を、とくと拝聴いたしましょう。