

広大な新國盛蔵に一歩足を踏み入れれば、目の当たりするのは総米16トンを一気に蒸し上げる連続蒸米機、林立するステンレス製の仕込みタンク群・・・・・しかし、そこに人影は少なく、辺り一面に漂う酒母の香りの向こうに自動制御パネルの光が明滅しています。「ともすれば『手造りでなければ、良い酒はできない』と言われますが、本当にそうでしょうか。私は、そうは思いません。良い酒ができないのは機械任せにしているからだと思います。人の手を煩わせるだけの単純作業を機械に任せた分、人の能力を必要とする工程にさらに集中できる環境が作れました。今では手造りを超える造りが出来ていると思います」 造りに関してこだわりを持ち、この新國盛蔵を取り仕切る醸造課長杉浦壮一(すぎうらそういち)氏です。
杉浦課長は、愛知県出身の42歳。大学では農学部農芸化学科の生化学を専攻しましたが、隣の応用微生物研究室の日本酒研究会に興味を持ち飛び入りで入会しました。その時に大吟醸をはじめて口にし、今まで自分が描いていた日本酒との違い、おいしさに感動したことが日本酒業界に興味を持つきっかけとなり、平成2年(1990年)中埜酒造株式会社の門を叩きます。
「配属は醸造課で新入社員研修を終えたばかりなのにいきなり“もろみ”担当を命じられました。今から思うと冷や汗ものです。当時は季節の蔵人さん杜氏さんが見えましたから、手取り足取り指導をしていただきました。酒造りの技術ノウハウ以上に酒は心で造るものとだという心構えを教えていただいたことが今では貴重な財産となっています。」
季節の杜氏や蔵人から社内技術者へのバトンタッチがはじまった頃に新人にもかかわらずがもろみ担当という重責を任された杉浦課長ですが、失敗もたくさんあって大変だったそうです。
「新潟から見えていた杜氏さんが4年前に引退されましたが、いまさらにその存在感の大きさを感じています。後を任され醸造課長に就任して早2年経ちますが、いつも責任の重さをひしひしと感じています。」と厳しかった新人時代から今までを振り返り、杉浦課長は懐かしげに語ります。
では、杉浦課長は「芳醇麗酒」をどのように考えているのでしょうか。
「新國盛蔵が完成し、当社にとって新しい酒造りがはじまりました。設計図を作ればいろんなタイプのお酒が造れるようになりました。私は若い技術者とともに酒質について議論を重ねました。その結果、第一に豊かな魚介類に恵まれ、独特の食文化を築いてきた知多半島の歴史と伝統に育まれ伝承されてきた酒質を大切にすることと、第二にさらにそれを進化させることでした。当時の酒質の特徴は、やや味のある上品なお酒でした。私は、それを基本に香りふくよかにして、口の中で上品な中に深いコクと後キレのあるお酒を目指したいと思いました。それを一言で表したのが芳醇麗酒なのです。今年10月に正(しょう)純米という製品を発売しました。かなり芳醇麗酒に近づいたと感じています。しかし、まだまだこれから挑戦を続けます。」この答えに杉浦課長は目を輝かせて熱く語ってくれました。
中埜酒造の製麹は、先進技術の粋を結集した“KOS自動製麹機”を使用していますが、仕上がりは手技を超える高品質とのこと。そのこだわりと吟味について、解説をお願いしましょう。
「当社ではいつでも使える状態の立派な手造り麹室があります。しかし、あえて機械製麹を行なっています。KOS自動製麹機の特性を最大限に引き出せば手造りを超える麹が出来ると考えています。機械を導入以来、試行錯誤を繰り返しましたがその間ノウハウを蓄積し今や酒質にあった麹造りを実現しています。特に高精白の大吟醸の場合ですと、かなりしっかりした力のある麹でないといけません。あまりハゼが回りすぎると味がクドくなりますから、微妙な“外硬内軟”の観察と適切な処置が大事ですね。当社の出品酒用の麹は機械造りです。それで何回も全国金賞をいただきました。市販酒と同様の造りをして受賞をしてこそが本当の造りだと考えています。」人の五感とハイテク機器の能力を駆使することで、さらに酒質が上がると杉浦課長は語ります。

麹の米には、高級米として山田錦は兵庫県産、五百万石は富山県産、美山錦は長野県産を使用しています。最近力を入れているのが地元農家との契約栽培米です。この件について杉浦課長に聞いてみましょう。
「地元農家さんとお付き合いして5年になります。今まで、愛知県食品工業センターの先生とともに知多半島産の酒造好適米、一般米の研究をしてきました。最初は当社が目指す米質と農家さんが追及する収益性という点でかなりの乖離がありました。しかし、膝を交え酒を酌み交わしお米、お酒の談義を重ねていくうちに当社の目指す米質を理解していただけるようになりました。現在は常滑市で酒造好適米“若水”を、半田市で一般米を契約栽培しています。毎年田植えから参加しており、お米作りから造りまですべて顔が見えています。地産地消をますます進めて行きたいと思っています。」なるほど素材選びに関しても、「國盛」のポリシーが現れています。
さて、仕込み水ですが、それは半田の伏流水なのでしょうか。
「知多半島は江戸時代から明治時代にかけ極めて醸造業が発達しました。それは地下水に恵まれていたからなのです。その豊富な地下水を各醸造家に配るために江戸時代、当社の先祖が中心となり総延長七㎞に及ぶ木管の私設水道を敷設しました。つい最近まで使用されていましたが半田市も都市化が進みその水道も使用できなくなってしまいました。いろいろ検討しましたが今は、水質のよい愛知用水を使用しています。」この愛知用水に関係している名古屋の水道水も全国最上位にランクされていると、杉浦課長は答えます。
それでは、「國盛」がこれから目指す酒、杉浦課長の酒造りの抱負を聞きながら、インタビューを終えたいと思います。
「飲み飽きしない、料理とともにある日本酒・・・・食中酒ですね。ですから、純粋な日本酒だけでなく、ややコーディネートされた食中酒もその範疇です。最近、焼肉店で好評の製品に“とらじの唄”がありますが、これは韓国のにごり酒“マッコルリ”をヒントにした、米で造った“和製マッコルリ”です。この商品も、その一例になると思いますが、スタイルは変化しても、芯にはしっかりした日本酒らしい味わいが醸し出されている酒を造りたいですね。当社には微発泡清酒、低アルコール清酒などのノウハウが蓄積されています。今後は当社の企業理念である“買う身になって・・・”に基づきあらゆるニーズに応える酒造りに精進して行きたいと考えています。」
残念ながら、今年の全国新酒鑑評会金賞を逃したと語る杉浦課長。しかし、ここ10年で6度の金賞受賞となっています。
「しかし、いろいろとよくアイデアが出ますね?」とつっこめば、「休みにはヨットで海原を走っています。仲間からいただくヒントが多いですね」と童心に帰ったような表情の杉浦課長。
その表情に、中埜酒造の次なるヒット酒を期待しましょう!