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室町酒造株式会社 ~蔵主紹介

「私が花房家に参った昭和58年(1983)頃は、まだ普通酒の下請け製造が幅を占めていまして、いわゆる吟醸酒の仕込みは少量で400石ほどでした。しかし、吟醸造りについては、曽祖父の宇一郎の頃から強い思い入れがあったのです。昭和30年頃は、吟醸酒を仕込む蔵元などほとんどなかったのですが、祖父の誉雄は毎年必ずタンク1本は仕込んでいたそうです。ほとんどは、自分が飲むための酒だったようですが(笑)。手間のかかる吟醸酒を造らせることで、杜氏や蔵人の腕が鈍らないようにしていたんでしょうね」

その吟醸酒が全盛となった第二次地酒ブームの頃、花房 満 社長は代表取締役社長に就任。備前雄町米の酒造りに邁進し、その美酒は全国新酒鑑評会でも賞賛されています。 室町酒造の新世紀の扉を開き、個性的なニッチ戦略で「雄町の酒と言えば櫻室町」、「櫻室町と言えば雄町の酒」のフレーズを、地酒ファンの間に広めているのです。

電気通信大学で経営工学・情報工学を学んだ後、医薬業界のマーケッターとして数年活動したという花房 社長は、最初に酒造業界をどのように感じたのでしょうか。 「商品力=ブランド力という価値観が、意外に医薬業界と似ていたのです。例えば、ある大手薬品メーカーの新薬を医師に売り込みますと、値引きやサービス交渉も起こらず、諸手を挙げて即購入してもらえます。しかし、名の売れてない中堅メーカーが同じ薬を持ち込んでも、まずは『いくらにしてくれる?』『何個サービスしてくれる?』という得意先の提示からスタートするわけです。私は、酒造業界にもこれと同じブランドマーケティングを感じ取ったのです。嗜好品におけるブランド力は、希少であるほど強さを持ちます。それに、いつまでも大手メーカーの未納税に頼っていては、当社のブランドが消え失せてしまいます。それに、ブランドとは外向きなアピアランスだけじゃなくて、社員のモチベーションの高さなど、内なる資産でもあるわけです。ですから、何より自分たち自身のやりがい、プライドが薄れていくことを懸念しました」

入社当初の方針は、未納税の酒造りを維持しつつ、櫻室町の銘柄は地元のお馴染み客などで現状維持するというものでした。しかし、低迷しつつある大手酒の市場を独自の識見で洞察し、さまざまな量販店の凋落を目の当たりにして、花房 社長は櫻室町のブランドエクイティー(企業資産)の再構築に踏み出したのです。
その決断は、大学時代に傾倒した「ランチェスターの法則」がベースになっていると花房社長は語ります。ランチェスターの法則とは、“弱者には弱者の戦い方があり、強者には強者の戦い方がある”という理論で、そこから導き出した独自のセオリーによって、オンリーワンの備前酒造りに取り組んだわけです。

それでは、経営者としての指針、備前酒造りへのポリシーを聞かせてもらいましょう。
「私は、“物事に対して正直である”生き方が、何よりも大事だと思っています。社業においては、当社の酒造りから商品力を客観的かつ冷静に見つめ、ベストな方針を臆することなく選択することだと思っています。雄町米の酒造りに特化したのも、そんな“正直な気持ち”と先述のランチェスターの法則を融合させた結果です。例えば、山田錦の酒造りを当社では一切行っていません。昭和60年(1985)頃までは手がけていましたが、経営者一同で協議の上、全面的に備前雄町米へ切り替えました。

おそらく、どちらの蔵元様も『そんな大胆不敵で、危なげなことはできない』とおっしゃるでしょうが、私の素直な心では、それが当然なのです。この備前の地に育ち、この地を愛している蔵元だからこそ、絶対の自信を持ってこの地の酒を造りたいと思っていました。そして、小さな名も知られていない当社がブランド力にできる価値・資産とは何なのかと考えれば、やはり、誰にもまねできない、唯一無比の“備前の酒造り”なのです」
鋭さと柔らかさを併せ持つ花房 社長の解説に、筆者は新時代の蔵元としての経営センスを実感しました。

備前雄町米の酒は、近年、つうの地酒ファンに好まれていますが、反面、その存在すら知らない料理人などもいて、「まだまだ“雄町米”の名の浸透が必要です」と花房 社長の言葉に力がこもります。
では、雄町米の美酒・櫻室町はどのような戦術で人気を高めてきたのか、その進展を訊ねてみました。
「取り引きのある酒販店様をローラー的に回ることは当然でしたが、まずは商品価値の高くなる販売ステージを作ることでした。そして、地元の百貨店様と取り引きが始まり、全国の店舗にも紹介されるようになり、ブランドが知れ始めました。こうなると、品質の一定基準を設けられている下請け酒造りと異なり、必然的に品質向上への努力と杞憂を繰り返します。そこで高精白の精米機を導入、技術向上をさらに追求して、櫻室町ブランドを覚えて下さったお客様に応え続ける、旨い雄町米の酒を造るようにしています」

上質のブランドイメージが生まれたなら、量販店との取引も増やし、さまざまなチャネルでシェアーを上げたいところですが、敢えて花房社長はそんな野心を抱かないそうです。 「心に決めた取引先様と信頼し合うことから、しっかりとしたきずなが生まれます。私が初めて三越百貨店様を訪問した際、当社の名前すらご存じなかったのですが、戦前の手印酒“室町”のご縁をお話しますと担当者の方が驚きつつ大変喜ばれて、『ぜひ取り引きを!』という運びになったのです。それは、三越様と花房家の先祖たちの長い信頼関係があったお蔭だと思います」
その言葉の意図を訊かずとも、花房社長の人となりに、筆者はこんな真意を感じるのです。
「自分の器に正直な生き方、室町酒造にふさわしいビジネススタイルでいい。それでこそ、本物の備前の地酒を造る資格がある」

さて、今回筆者が最も知りたかった項目に、室町酒造の「備前雄町米」への取り組みがあります。
質問がそれに及ぶやいなや、花房 社長は「それなら、当社が契約している雄町米の生産者に会ってみませんか?」と立ち上がりました。

萌黄色に輝く雄町米の田んぼで篤農家からじかに話しを聞けるとは、またとない幸運!さっそく取材スタッフは花房 社長とともに、お隣りの瀬戸町坂根地区に暮らす佐近 肇(さこんはじめ)さんを訊ねました。
佐近さんは、赤磐郡瀬戸町の農業委員であり、地元の備前雄町米の生産者を代表する人物です。
「備前雄町は、柔らかくてやんちゃな米でしてね。育て方をしくじると、いろいろなクセを出すんですよ。ですから肥料や水をあまり足さず、土壌が窒素過剰にならないように気を配っています」
いわゆる有機的な栽培に近い方が、しっかりとした出来栄えになると佐近さんは言います。その点で坂根地区は赤磐地域の中でも気候的に恵まれ、自然の風水害も少なく、上質の雄町米が獲れるそうです。
「当社は、佐近さんならではの特別な雄町米をもらっているんですよ」

そう言って花房社長が指差した田んぼは、他の田に比べて稲の列が不揃いで、土もあまりぬかるんでいません。
「この田には、“不耕起直播(ふこうきちょくは)という栽培法を使っています。土はしろかきをせず、苗を植えずに籾をそのまま蒔いて育てる方法です。水もできるだけ入れないようにします。土壌が硬く自然に近い環境なので、早く米が実るんですよ。それに、米粒にも元気がありますな」

通常、雄町米は11月の収穫なのですが、できるだけ早く酒を仕込みたい室町酒造のために佐近さんは不耕起栽培を手がけているそうです。
その雄町米を室町酒造は10年前から使っていますが、その間、岡山県の品評会で幾度も金賞に選ばれ、佐近さんをモチーフにした特別本醸造“佐近”をリリースしています。また、佐近さん自身は皇室への献上米作りを依頼されました。
「今年も上々の出来栄えですが、気になるのは台風です」と柔和な顔をほころばせる佐近さん。暴風雨に悩まされた昨年、背の高い雄町米の稲はことごとく倒され、被害も甚大でした。
秋の収穫期には、地元の雄町米部会を構成する67、8軒ほどの農家が手を取り合って対策を検討するそうです。

ここまでの内容から、読者の皆さんも、室町酒造がいかに備前雄町米の酒造りを矜持し、一途な信念を貫いているかを実感できるでしょう。
その成果が如実に現れているのが、花房 社長が精力的にエントリーしているベルギーのモンドセレクションでの連続受賞です。

2001年は、極大吟醸「室町時代」・純米大吟醸「ゴールド雄町米の里」・純米吟醸「備前幻」が連続して金賞。2002年は、室町時代がグランプリ(大金賞)に選ばれ、ゴールド雄町米の里が国際高品質賞を受賞。さらに2003年、ゴールド雄町米の里がグランプリ、室町時代・備前幻は金賞受賞。そして2009年には「室町時代」「ゴールド雄町米の里」がグランプリ(大金賞)に輝き、2000年初出品以来金賞・大金賞合わせて10年連続受賞。いまや押しも押されもせぬモンド賞の常連となっています。
社長室には、所狭しと栄光の金メダルが輝いていますが、今年はさらに新たな快挙が重なりました。

「モンドセレクションとともに世界三大酒類競技会になっている、アメリカのB・T・I(ビバレッジ・テイスティング・インスティチュート)コンペティションで、極大吟醸「室町時代」・純米大吟醸「ゴールド雄町米の里」などが金賞を受賞したのですが、純米酒から蒸留した米焼酎はさらにベストスピリッツ賞に選ばれました。ベストスピリッツ賞は、金賞に選ばれた製品をさらに審査し、ただ一点だけに与えられる誇らしい称号です。実は、米焼酎の銘は“室町”としていたのです。

昨年、太平洋戦争後に失っていた伝統ある当社の商標“室町”が、60年ぶりに我が社へ帰って来ましてね。使っていた灘のメーカーが数年前に廃業していて使用を許可されたのですが、今回のB・T・I受賞はそれに華を添える素晴らしいプレゼントでした」
この成果がセールスにつながることも大事ですが、社員たちの気概と励みになることが一番嬉しいですねと、花房 社長は喜びの表情で語ります。
継続は力なり! ひたむきにチャレンジし続ける花房 社長にピッタリの言葉だと、筆者は思いました。
その信念は、世界の檜舞台に雄町米の美酒と備前の地を、さらにアピールしていくことでしょう。