蔵主紹介

玉乃光酒造株式会社

人の和が、未来を醸す
― 14代目社長・羽場洋介さんが語る、350年の伝統とこれから ―

京都・伏見の地に蔵を構える玉乃光酒造。
1673年の創業以来、350年を超える歴史のなかで、純米酒にこだわり、職人の手で丁寧に酒を醸し続けてきました。
そんな酒蔵を率いるのが、14代目当主・羽場洋介さん。時代が変わっても変わらないもの、あえて変えていくべきもの。その両方と真摯に向き合う羽場さんに、酒造りにかける想いを伺いました。

350年続く職人の手仕事の物語

「玉乃光の酒を一言で表すなら、“350年続く職人の手仕事の物語”です。」
そう語る羽場さんの言葉には、代々の蔵人たちが守り抜いてきた歴史への深い敬意が込められていました。
創業は江戸時代。紀州藩・徳川光貞公より酒造免許を受け、御用蔵として始まった歴史は、戦争や蔵の移転、社会の大きな変化を乗り越え、今の玉乃光へと続いています。
「私は14代目ですが、この酒を造ってきたのは、代々の職人たちなんです。時代がどんなに変わっても、“本物の酒とは何か”を問い続けてきました。その想いを、私たちはこれからも受け継いでいかなければなりません。そして今、AIやロボットが世界を覆うこの時代だからこそ、人の想いで醸す酒に、絶対の価値がある。私は、そう信じています。」
羽場さんのまなざしの先には、脈々と受け継がれてきた「人の技」と「心」がありました。

杯が生み出す、かけがえのない時間

玉乃光が掲げる企業理念は、「いい酒で、いい時間を、造る。」
その言葉には、酒そのものだけでなく、“その酒があることで生まれる時間”に重きを置く羽場さんの哲学が込められています。
「奇をてらうことなく、正統で、まっすぐな純米酒を造りたいと思っています。農家さんと一緒に育てた酒米、伏見の自然が育むやわらかな仕込み水、そして職人たちの丁寧な手仕事。そこに“人の心”が注ぎ込まれることで、ようやく“いい酒”が生まれるんです。」
自然の恵みと、人の技と想いが重なり合って醸される一杯。
それは、ただ味わうためではなく、誰かと過ごす時間を豊かにするためにある酒です。
「一杯の酒が、食事をより豊かにし、誰かとの語らいに花を添える。そんな“かけがえのない瞬間”のために、今日も酒を醸し続けています。」
羽場さんの語る“いい酒”は、単なる味わいではなく、人と人の心をつなぐ存在でもあるのです。

未来の伝統を、いま創る

350年の歴史は、守るべき誇りであると同時に、「未来への挑戦状でもある」と羽場さんは語ります。
「伝統とは、ただ形を変えずに残すことではなく、“変わらない本質”を守りながら、時代に即した表現をしていくこと。今を生きる私たちが、未来の“伝統”を創っているのだと思います。」
酒蔵は、ただの建物ではありません。幾千もの手と心が織りなしてきた、魂の記憶。
玉乃光は今、酒造りの枠を越えて、芸術や伝統文化、食文化と結びつきながら、「日本の心」を世界へ届けようとしています。
「これからの玉乃光は、酒造りを超えて、芸術、伝統文化、食文化と結びつき、世界へ、日本が育んできた“心”そのものを発信していきます。」
この姿勢は、蔵の中で職人たちが大切にしてきた「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」――人の和が、良い酒を生む――という考えにもつながっています。
伝統にあぐらをかくことなく、未来の酒造りのために、今できることを問い続ける姿。それこそが、玉乃光の「現在地」なのです。

人生に寄り添う「誠実な光」を目指して

どれだけ長い歴史があっても、まったく同じ年はありません。
気候、米の出来、仕込み水、そして共に働く人々。それぞれ異なる条件のなかで、変わらぬ味を目指して挑み続ける――そこに、玉乃光の酒造りの本質があります。
「どんな時代でも、玉乃光は人と自然、そして伝統文化への敬意を忘れずにいたい。酒が、人生に寄り添う“誠実な光”であり続けられるように。」
酒は、ただの嗜好品ではなく、人の暮らしと心にそっと寄り添う存在。
代々の職人が受け継いできたその姿勢を、羽場さんは静かに、そして確かに、次の世代へとつないでいます。

その一杯が、未来を照らす

静かな口調のなかに、凛とした想いが宿る羽場洋介さんの言葉。
その一つひとつが、玉乃光の酒と同じように、まっすぐで、奥深い余韻を残してくれます。
守るべきものを守りながら、新しい未来へと踏み出すこと。
変わらない味の裏にある、変わり続ける努力。
それはまさに、「人の和」が生む、未来を照らす酒造り――。
羽場さんの酒に込められた光は、きっとこれからも、誰かの人生を優しく照らしてくれるはずです。