
新生加賀の井の躍進を支える、ベテラン杜氏の飽くなき挑戦
加賀の井酒造が最も力を入れているフラッグシップ酒、いわゆる代表酒は「純米吟醸」です。筆者も飲ませていただきましたが、ほのかに米由来の香りがただよい、綺麗な口当たりで上品にキレていく印象。まさに、糸魚川名物の白身魚やカニのおいしさを引き立てる味でした。
現在、酒質設計は蔵元の小林大祐さんが行なっていますが、営業も担当していることもあり、オペレーションは父である小林幹男さんが行なっています。新蔵での酒造りは、以前の蔵と環境が異なり、慣れるまでは苦労の連続だったということですが、長年培ってきた経験と職人気質の探求心で見事克服。新生加賀の井のお酒の評価は、年々高まっています。そのお酒を育む、水・米・技とは? 醸造責任者の小林幹男さん(以下、小林さん)にうかがいました。
創業当時から当主たちがこだわり、掘り当てた井戸から湧き出る水は、軟水の多い日本では珍しい中硬水(アメリカ硬度約130ppm)です。当時と同じ水脈からくみ出す水は、今もすべての仕込み水に使われています。この水だから生まれる味わいについては、「硬水で造ると、ややもすると荒っぽいお酒になりやすいのが特徴です。我々の造る純米酒の超辛口は、この水を生かしたお酒。軟水ではなかなか出せない味わいです」(小林さん)。というのも、硬水を使うと、ミネラルが酵母の栄養源になるため活性化しやすく、米の糖分をどんどんアルコールに変えていきます。そのため糖分は少なく、キレのよい辛口になりやすいためです。「ただ、代表酒の純米吟醸はもっと穏やかな味を目指していますから、もろみの温度を調整して、酵母が極端に働き過ぎないようコントロールしています」(小林さん)。
原料の米は、現在全体の9割以上を五百万石が占めています。中でも、地元新潟産の比率は年々増えているとのこと。「お米は同じ品種でも、作る場所や作る人によって品質や味に違いが出ますからね。やはり、地元の米は地元の水とも相性がよいですし、農家の方と直接お話しする機会もあるため、意見を交換することで、こちらの求めるお米を作っていただきやすいというメリットもあります」
米は、五百万石をメインとしながら、地元産のたかね錦や山田錦も使用。「我々の目標とする味のお酒をさらに追究するため、様々な米を、麹、酵母の組み合わせを変えて試験的に造っています」と小林さん。そんなチャレンジができるようになったのは、新蔵になって、狙い通りのお酒が造りやすくなったことが大きいと言います。密封性が高く、衛生管理や温度、湿度調整などをしやすくなったことが要因ですが、当初はとまどったこともあったそうです。
「たとえば麹作りでは、湿度を高くするタイミングと低くするタイミングがありますが、昔ながらの天然の木材の麹室であれば、木が水分を吸湿したり蒸発させたりすることで、自然な調節が可能でした。ところが、今の麹室は建築資材を使っているため、断熱性も密閉率も高い分、人為的に加湿や除湿を行なう必要があります。そのため、3室ある麹室の、どこをどういうタイミングでどれくらいの温度や湿度にするのがよいのか、慣れるまでは大変でした」。その後、麹作りの回数を重ねながら、よりよい温度や湿度を研究し、管理のコツを習得。以降は、麹の出来具合も安定してきたといいます。
また、密封性が高いことはデメリットになることも。「実は、カビなどの菌に汚染されることが多くなりました。昔の木造の建物は、通気性がよいので菌が存在しても繁殖はしにくかったのですが、今は菌が侵入すると繁殖しやすいようです。そのため、手洗いや換気はもちろん、臭いに注意しています」。とくに、朝最初に蔵に入ったときは、まだ作業が始まっていないため異臭に気付きやすいそう。「変な臭いがするときは、どこかで菌が繁殖していることが多いので、原因菌をみつけて素早く除去するようにしています」。
それを除けば、新蔵での酒造りはメリットが大きく、目指す酒質にならないときは、麹作りを見直したり、酵母を変えたり、一つひとつ原因を探りながら対策を講じ、酒質向上に努める日々です。それでも、「なかなか納得はいきません。時代によって求められる味わいも変化していきますしね。納得いくことは永遠にないかもしれません」。
ベテラン杜氏の飽くなき挑戦は、まだまだ続きそうです。
